「身体全部痛い」
「……流行りの病気？過激な惚気？どっち？」
「ラップバトルでも練習してるのか？研究続きで凝ってるだけだぜ」
「ああ、凝りをきゅっとしてどかーんしたらいいのね」
「筋肉ごとどかーんしそうだな……」

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

星空を見た。ような気分になった。
いまは見えないオリオン座も冬になればまた見える。朝に天の川が見えないからって、夜にしか川が流れていないわけでもない。
いつかはこの夜雀に化かされたような闇だって晴れる。そうしたらきっとわかる筈だ、案外幻想郷も広いんだって。

ま、幻想郷が幾ら広かろうが、しばらくは引き篭り生活だけどな。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

寝てないのか？ってくらい眠い。ちゃんと寝たぜ……。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

やっと終わらせられたのに、私は終われないままなんだな。
好きだよ、なあ。

終わりにする方法がわからないのは、きっとお姉ちゃんも同じだったよね。……ううん。もしかするとお姉ちゃんのほうが余程わからなかったのかも。お姉ちゃんったら、地霊殿に際限なく集まる動物たちを一匹たりとも拒まず受け入れるようなひとだから。
——大丈夫だよ、お姉ちゃん。私が綺麗に全部縊り殺してあげる。
お姉ちゃんを愛してあげられない。お姉ちゃんを笑わせてあげられない。お姉ちゃんを喜ばせてあげられない。殺すことばかりが得意で、ちぐはぐな恋を飼い殺して。お姉ちゃんにあげられる想いはいつしか、ぎざぎざに尖ったガラクタだらけ。
だけど、それでも。どんなに醜悪な私こころでも。壊れる一瞬が綺麗なら、走馬燈みたいに恋をしてもらえるんじゃないかって思ったのよ。

だから。ねえ。
私の恋をどうか笑って受け取って。

もしも叶うなら、最後に褒めてほしかったなあ。よくできましたねって。いつもの冷たい囁き声で。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

隣にいても昔みたいには触れないことが、なにより苦しくて痛かった。
貴方の幸せはここにはない。私の幸せはどこにもない。

だから。これで、今度こそ私を見限ってくれるよね。お姉ちゃん。

望む結末はどこにもない。だからせめて、よりよい未来を選ぶしかない。
——条件設定、演算開始。デフラグ。再計算。デフラグ、デフラグ、デフラグ。再計算。
優先度の設定はAIわたしの得意分野だから、任せてくださいね。センパイ。……先輩。

でも。ひとつ、ワガママを言わせてください。
いつか、あの日をずっと繰り返したみたいに——ぎりぎりまでは、無意味な再計算を繰り返します。
このまま。無意味なまま。一歩も進まないままで。あともう少しだけ、一緒にいさせて。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

あー、もー。
——認めますよ、認めます！ちょっとだけセンパイ可愛いなーとか思っちゃいました！まあBBちゃんの邪悪キュートっぷりには到底敵いませんけど！？
わたし（に外見データだけ書き換えたシェイプシフター）を抱き締めて寝るセンパイ……わたしの内なる後輩心がきゅんきゅんして、思わず頭よしよししておやすみなさいセンパイ♡なんて真っ当に寝かしつけちゃうところでした。
でもBBちゃんはグレートイビルなラスボス系後輩ですので？わたしの前で無防備にもぐっすりしちゃうおバカで危機管理意識の足りないセンパイには、もーっと過激で刺激的なおやすみの挨拶をかましちゃいます。寝る前にしたら興奮しておめめぱっちりしちゃうところでしたね、セ・ン・パ・イ？寝た後にこっそりとしてあげるBBちゃん、なんて優しいんでしょう！

なにをしたかって？
えっと、……良い子の皆さんにはナイショですーっ！

もしも私がこの眼を閉じなかったとして、それでも一から十までを理解し合うことはできなかったんだろうね？
私はこころに蓋をするのは眼を閉じる前から得意だったし、お姉ちゃんもすべてを明かしてくれるわけじゃなかった。わかってたよ、汚いものは視えないように隠してたでしょ？
貴方のこころの一部なら、どんな汚物だって喜んで呑み込んだのに。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

昔ね、悲しいお話を読んだのよ。愛されたがりのサトリの話。

"あの暗い部屋の中、たったひとりで起きていた"。
隣にいなくちゃこころが視えない。だから手を繋いで朝を迎えたかった。だけど起きたときお姉ちゃんはいなかった。
目覚めた私をお姉ちゃんが抱き締めてくれていたら、私はもしかするとまだなんのてらいもなくお姉ちゃんの妹でいられたのかもしれない。
だけど、もうおしまい。
私たちは決してひとつにはなれないの。これまでも、これからも。私がこころを閉ざしてしまったから。貴方の星せかいから飛び立ってしまったから。貴方の愛を一から十までは信じられなかったから。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

何程もわかりあえないとして、お姉ちゃんは私のなにを愛してくれているというの？