悟は鋭いな、とよく思う。
傍若無人な様でいて、その実意外にも感情の機微に敏感だ。それが彼の性格故なのか、持って生まれた眼の性質故なのかはさておき、特に最近になって呑み込もうとした感情を既のところで悟られることが増えた。勿論それがプラスなら良いんだが、どうにもマイナスの方が多く察知されているように思う。
元々呑み込むのは得意だ。喉元過ぎれば何とやらとあるように、一度呑み込んでしまえばどうとでもなる。でも最近の悟はそうさせてくれない。私が呑み込む前に問うて来るものだから、釣られて感情を吐露する機会が増えてしまった。例えば不安だったり、寂しいと言う感情だったり、あまり知られたくないようなものばかりを。
私がみっともなく吐き出した感情を悟は責めない。諌めることもしない。ただ受け入れて、剰えよく言えましたとばかりに褒めてくれさえする。
人の弱音を聞くのは苦にならない。ただ、自分のそれを人に聞かせるのは苦手だった。言ったってどうにもならないことも多いし、それなら呑み込んでしまった方がずっと楽で居られる。誰も興味が無いものを態々晒す必要もない。
なのに、悟はそれを聞きたいと言う。お陰様で知らない間に私は随分と女々しくなってしまった。そしてそれを許容する男が隣でもっと頼れと甘やかしてくるんだから先が思いやられる。更にタチの悪いことに、私もそれを存外悪くないと思ってしまっている。
フフッ、寂しんぼはどっちだよ。
傑が飯食ってる間に乱入!
といっても、タグ動作してるか見に来ただけだけど。折角だから何か書き残していきてぇな。
あー、じゃあ傑の好きなとこでも書いとくか。
傑は、何て言うか良い意味で楽な奴だ。話してて俺が楽ってだけで本人が楽かどうかはさておきだけど。些細なところで息が合う、ノリが似てる、許容範囲が似てるあるいは理解できる。こういう細かいことって、重視しなくても人間と話すうえで普段はそんな困らねぇんだけどさ。ふとした時の苛立ちなんかはあると思うんだよな、あの補助監督マジで訳わかんねータイミングで怒るな…とか。でも傑にはそれがない。ずっと一緒に居ても息が詰まらねぇのはアイツのすげぇとこだと思う。勿論気遣われてんのもあるだろうけど、アイツもそうだと良いなと俺は思ってる。
日記だとアイツを起こさずに書き込めるのが良いところだよな。また後で編集する。
#0410.0658
今日は久し振りにジェイドと二人きりで過ごす日。
あ〜…早く起きねえかなあ、悪戯しちゃおっかなぁ。おでこにオレの名前書いたら怒るかな、水性ならセーフ?油性しか見当たんねーから油性でもいっかぁ。
…あ、起きた。
>>悪戯はしても構いませんが、油性はやめてくださいね。
#1130
これ多分だけどぉ、ジェイド寝たり起きたりしてんじゃね?そんな感じする。やっぱ眠ぃんだろうな〜。映画観るっつってたけど寝んじゃね?ヘーキかな。今日はゲームの方が良い?わっかんねーから後で聞こ。
今日こそ早く寝かせてやんねーと。
#1300
あ〜、これ多分寝てんなあ。
ま、いっかぁ。ジェイドが起きるまでオレもなんかゲームしてよ。
起きたらちゅーして構い倒そ。
#1320
起きてた!
#1530
おねむだねぇ。
積んでたゲームが進むから良いけど、ジェイドいねーとつまんねー。
#1700
オレも眠たくなって来た。
夕飯作って目を覚ますか、このままちょっと寝ちゃうか…どうしよっかなぁ。
#1910
ジェイドがオレの為に頑張ってくれてんの、凄い愛されてるーって感じすんね。
あは、悪くねえ気分。
#2350
あ"〜…もうだめ、ばたんきゅー。
#0409.2255
俺がしっかりしないと、駄目なのになあ。
>>早パイにしっかりしろ、なんて俺言ったことねえだろ。駄目なわけねえじゃん。
#0410.0225
インドって何だよ。
はー…ばかデンジ。
お前のそういうところが好きなんだよな。
#0410.0340
散々駄々を捏ねたみっともない夜だった。
自分の事を話すのは相変わらず苦手だ。
でも、アイツは最後まで話せなかった俺を一度も責めなかったし、それ以上追及もして来なかった。
具体的な話を何一つ出来ないままでも。
早く寝かせてやれなくてごめん。
せめて良い夢を見てることを願う。
#0409
「じいさんさあ、折角日記の一つも付けるんだったら普段直接は言えないような惚気の一つでも言ってみれば?僕にばっかり宣ってないでさ。」
呑兵衛詩人相手に惚気たつもりは一度もないが、珍しく真面な事を言うものだからつい筆を執ってしまった。ふむ、惚気か。
公子殿と過ごす朝が好きだ。
俺の朝は早い。休暇中とは言え、普段の習慣もあって目覚めが早い。対して、公子殿は朝に弱く、仕事の都合上起きる必要もないと言う。それなのに、彼は俺が起きる時間になると碌に目も開かない寝惚けた状態でしがみついて来て、剰え俺を寝かしつけようとさえする。寝起きの蕩けた声で接吻を強請られ、暖かい身体を抱き締めて始まる朝の、なんと素晴らしいことか。
公子殿と過ごす夜が好きだ。
普段あれだけよく笑いよく喋る彼の口数が減って呂律が回らなくなったら頃合いで、同じ布団に潜り込んで背を撫でてやると意外にもあっさり陥落する。それだけ睡魔に襲われながらも、俺はちゃんと眠れるかと気に掛けてくるのは如何にも彼らしい。
夜は不安に襲われやすい。それでも、彼の体温に包まれていると不思議と朝まで起きる事が減ったように思う。
今でも偶に来る、どうしても眠れない夜は公子殿の寝顔を見ながら過ごしている。眠っている彼の頬に指で俺の名前を描くと、むず痒そうに唸って布団に深く潜ってしまった。顔が見えず飽いた俺が頸を撫ぜたら、睡眠を邪魔した事を怒るでもなく布団から生えた腕に抱き締められていつの間にか眠っていたこともあった。あれは愉快な夜だった。
彼と過ごす日常は穏やかで、温かい。
何一つとして不満はないが、一つ欲を言うのであれば、自身より俺を優先するきらいのある彼がほんの少しでも自分の為の我儘を言うようになればと思う。
その途中で彼が俺について考えた事、悩んだ時間も俺のものだ。その全てを、いつか知りたいと願う。
…ふむ、惚気と言うには少々固すぎるな。どうやら俺には向いていないらしい。