バウワウ！ がうがう！ …は？ いや、俺たち麻天狼……狼だもんで だもんでと言うか、狼のネーミング背負ってラップかましているくせに、違法マイクで狼にされるという屈辱 奇跡的にも帰り時間が被った相手とハロウィンで賑わう街を擦り抜け、ふたりだけの密やかなフェスティバルを期待して帰路を急ぐ Jack-o'-Lanternのプレートが載ったケーキでも買って帰ろうか 今夜は缶ビールじゃなくて、シャンパンの気分だ 何気ない話し、今日あったお互いの話し、ふざけた会話 何だっていいんだ、相手がオマエなら そんな細やかな俺の至福タイムを無遠慮に荒らしやがって 赦し難いな 覚悟しろよ若造どもめ バトルで優勝してからというもの、腕試しだかなんだか知らんが、やたらと挑んでくるヤツらに出くわす 多勢に無勢で、冷たい汗が背を流れるときもある だが今夜はシンジュクナンバーワンの男が隣にいるんだ、ＭＣ ＮＡＭＥ『ＧＩＧＯＬＯ』がな 耳障りな音をまき散らしながら、無茶苦茶なライムで吐くリリック おえっ…気分が悪い 一発でキメて、とっとと帰ろうぜ、一二三 大したことない雑魚ラップだったが、互いに多忙がたたっていたんだろうな 目が醒めたのが玄関だなんて情けない まぁ…俺たちもう中年だからな 結局ケーキもシャンパンも買えなかった せっかくの満月でのハロウィンだというのに… 満月…の… （ドクン） ――え？ 一二三…なんだ、その手足の肉球は ええっ？ み、耳…と尻尾まで生えて……お、俺もか！ （ドクン ドク…ン） ヤバい…なんだこれは 一二三の匂いが……濃い 巷？ では、Ωだのαだの…なんとかバースというものがあると聞く そのへん俺は疎くてよくわからんが…首根っこに咬みつかれたら、俺はもうオマエのものという思考にさせられる …ちがうな、させられるんじゃなくて、必然的な番なんだろう 「こーら逃げんな」って、貪られるのは………キライじゃない それは相手がオマエだからだけどな それはそうと… なんでそんなに遅漏なんだよオオオオオオォォォっっっっ――ン！（遠吠え） 空には大きな満月 |
ただいま… （返ってこないとわかっていても、同居人の残り香を感じるリビングへと足を踏み入れると、自然と声に出る、それが日課。きれい好き、整理整頓に長けた彼にしては珍しく、テーブルの上には小説や雑誌が置き放されている。何を読み耽っていたんだ、とソファへ鞄を置き、代わりにその内の一冊を手にした途端、ブ…ウゥゥゥオォ――ン、と聞き覚えのある音が鞄の中で唸りを上げ…） う、わ…なんだ？ ヒプノシスマイクが反応してい…る？ （なにが起こったのかと呆然としていると、書籍の中の三冊がマイク音に呼応するかの如く光を放ち始めて息を呑む。己のマイクのスピーカー、パソコンのモニター画面に、数時間前までここにいた伊弉冉一二三が語ったであろう言葉が次々に浮かび上がってきて） ……とまぁ、な 今回もどれも惜しくてひとつだけを選べん… 選べないが、選ぶしかないっていう Ⅰ.よりによってストイックな、しかも神父のもとに居座るドラキュラこそストイックだと思うけどな でもってめろめろとろんとろんになるってわかっているのに吸わせる俺も俺 結局、血をやる＝……オッケーって言っているようなもんじゃないか Ⅱ.アラサーのオッサンふたりとはいえ、メルヘンパラレルにてグリム童話コスプレでお菓子のお家に齧りつくなんてのも…滅多に味わえない童心気分に返っ………たかとおもいきや、やっぱり大人の事情が纏わりつくんだこれが Ⅲ.ひふみには言っていなかったが、バトルで優勝してからというものの、よく野良バトルをしかけられるようになった できることなら無駄な争いなどしたかねぇ…それでもやるというならやるしかねぇだろ 意気込んでマイク起動――…いくぜっ！ …がうがうっガオガオ…？ あれ？ …… ケモケモバトルだったのか、しかも発情中… （すべてを読み終えると、何事もなかったのようにスピーカーは消え、マイクもシャットダウン、本の光も消失し） ……さて 腹が減った ひふみ、今夜の飯はなにかな （わくわくと思案しながらハロウィンまでの時間を過ごせることのしあわせと、愛する恋人への感謝の思いを胸に秘め、笑みを含んだ独りごとを零して） |
(同居人が留守の広い部屋を持て余し、日課の金魚の餌やりを終えればふと接客中に聞いた話を思い出し、自室から何冊かの本を引っ張り出し、リビングのテーブルに並べ、ホットココアの入ったマグカップを片手にぱらぱらとページをめくり)キーアンドブックチャーム、っつったっけか…。詩集や短編集のこんな場面に遭遇したい、こんな景色を見てみたいってトコに鍵を挟んでおいて紐で縛ってハロウィンまで引き出しにしまっとくと、現実化したり夢に見たりするとか…。お客さん情報だけど、チョッチ面白そうだしやってみっか～…。 Ⅰ.(ドラキュラ関連の本を手に取れば挿し絵にビクビクとしながら内容をさらい)ハロウィンと言えば王道の！ドラキュラ～！…だけど、何で女の人の血ばっか吸うんだろ…。俺っちがドラキュラなら女の人の血なんて吸えなくて、独歩ちんお助け～！血ィ頂戴～！つって独歩から吸うのにな…。独歩はすーっごくストイックな神父さんなのに、俺っちに血ィ吸われるとメロメロとろんとろんになっちまうとかでもイイな～…。 Ⅱ.(グリム童話を手に取り何気なくページを捲っていけば大きなお菓子の家のページに目が止まり)ヘンゼルとグレーテルもハロウィンっぽいよなぁ…。俺っちたちどっちも男だけど。二人で森に迷い込んでお菓子の家に入ったら閉じ込められちって、○○しないと出られない家～！…なんてあんのかな？ Ⅲ.(小説の中に紛れていた雑誌がトサッと床に落ちれば慌てて拾い上げるものの書かれている内容に思わず眉間にシワ寄せ)違法マイクの使用急増…なぁ。野良バトルもいい迷惑なんすけど～…。俺っちたちの場合「狼」ってよく使われるワードだから、二人して狼の耳とかしっぽ生えちまったりして……狼男？ガオガオする独歩ちん躾てぇし、二人して発情期来ちゃったらどーしよ…。 鍵を挟んだのは…、 Ⅰ. Ⅱ. Ⅲ. それとも…？ |
「浴衣…なぁ」 アイツと縁日に行くために選んだ浴衣 だけど不器用な俺が、この「布」を巧く身に着けられるわけがない ブラックな企業の従事から逃れて帰宅した俺は、仮眠を終えてシャワーを浴びると、自室で浴衣と格闘した ――が、時間をかければかけるほど乱れていくのはなんなんだ ちっ、と舌うちしてから、ひふみの手を借りるべく部屋を出る ひふみなら器用だし、店のイベントやらなんやらで、浴衣くらい着たことあるだろうし まぁ案の定、リビングには、びしっと浴衣を着込んだ色男が待っていた 俺のよれよれになった「布」をちゃんと「浴衣」に戻す魔法をかけてくれた 愉しみにしていた縁日 浴衣にジャケット…という破天荒な出で立ちの一二三だが、女が大勢いる場へ行くんだ、致し方ない りんご飴が食べたいって言う一二三のために、露店に目を配って見つけてやった ふたりでひとつのりんご飴 齧りあいながら、賑わいの中、こっそり手を握り合って歩く 「独歩くん、金魚すくいは得意かい？」 訊かれて唇の片端を持ち上げる 88匹の記録を持つ俺だ、ふふふん ぜんぜん掬えないと言った一二三を横目に、俺はぽいぽい桶へ掬い入れていく ポイが完全にイかれたわけじゃあなかったが、掬った中でも一際、金色の鱗がきれいな個体と、黒の出目金を一匹ずつ選んで持ち帰ることに そろそろ花火が打ち上がる時間だ 不意に一二三が俺の腕を引いて、喧噪から外れた場所へと誘う 人影のない雑木林の中を進んでいくと、ぱっと視界が開けて、前方に周囲より小高い丘があった ジャケットを脱いだひふみが、引いていた手を恋人繋ぎに変えて笑顔を見せる アナウンスのあと、一発目の花火が上がって、遠くから歓声が聞こえた みんな、多くのひとが見上げている空の華 だけどここではふたり占め ひふみ、今夜は俺たちの記念日だよな 「俺っちのバカ～！」 …って、シャンパンと花束を持ってこなかったことを悔やむひふみ いいじゃないか、ほら、「ラムネ」がある 今宵はコレで充分……乾杯 ふたりだけで見上げる空 握り合う手から伝わる温もりは、手から唇へ 「俺っちを見て…」 なんて切なげに言うなよ、いつだって見ているさ 見ているし…、全身でひふみの体温、感じる 来年の夏も一緒にいような 大好きな…ひふみ |
独歩ちんへ。 この前の夏祭りのリベンジさせてください！ 今度はメガシャキ装備で挑むから…！ 俺っちと一緒に花火見てくんねぇかな…？ 日時は独歩の都合の良い日！ 案としては、 1.自宅ベランダから見る遠くの花火大会(ビールと枝豆つき) 2.夜の海の浜辺でまったり手持ち花火(夜釣りでもしてお魚ゲットする？) 3.人気の無い雑木林から見上げる間近の花火大会(独歩を美味しく頂く) でーっすっす！ 独歩の理想の花火大会みてぇなのがあれば希望に沿いてぇし、教えてもらえっと嬉しい。 独歩の好きな季節に、思い出作らしてほしい。 返事もらえっと嬉しいな。 |