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だいたい調理部日誌!
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8 :
アーサー☆
09/12-08:33
雨の日につい右隣を見る癖がついた。
ふと差している傘の中に上着を羽織る彼女が、俯きがちなあの横顔が見えるような気がして、未練がましく何度も何度も俺は隣を盗み見る。
幻でさえ何かに憚られるような気がして直接見れやしない俺が、どうして話しかけたりできるだろう。
彼女ともう一度話せたらいいのに。
控えめに話すのは初対面だったからだろうな。
金糸の睫毛に飾られた瞳はきらきら、光が瞬いて。
寒さに震える肩を抱くことが出来たら良かったのに、ハンカチを渡すのが精一杯だった。
彼女がもう決して濡れないように傘を傾けるのは、俺だけに許されたとても重大な役目のように思われて、誇らしくて、恍惚とさえしていた。
なんで同じクラスじゃないんだ。畜生。
知ってる、またあいつが隣にいた。随分と仲が良いらしいじゃないか。
俺だってずっと、幾つも、彼女に訊いてみたいことがあるんだ。
薔薇は好きだろうか。百合の方が似合うかもしれない。
紫陽花、桔梗、アベリアや木槿、露草や芙蓉に椿に蓮華にガーベラとデイジーやマーガレット、かすみ草や蘭や花水木かジャスミン、石楠花に牡丹、藤や桜や梅の花。
どんな花が好きなんだろうか、何色が好きだろう。
想像する。
彼女が少し屈むんだ。
少女らしい華奢なラインを持つ両足が屈んで、膝にはあの可愛らしい掌を乗せている。
菫色の瞳、視線が絡むのは薔薇の花。細い指が花を柔らかく囲う。ふっくらとした下唇が緩く反った花弁に触れて、微笑む。
花のかんばせ、綻ぶ様を見てみたい。
そんな妄想ばかりが浮かんでは消え、実際は雨にけぶる通学路しか見えないまま信号を待つ。
声が聞きたい。
話したい。
彼女に会いたい。
なあ俺のこと、覚えてるか?
覚えてなくったっていいんだ。構わない。なんでもいい。
今度は君の瞳に映ることができるなら。
また君の隣で傘を持って歩くことができるのなら。
梅雨空が絶え間なく降らせる絹糸のような細い雨の中を、俺は今日も独りきりで歩いていく。
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