スレ一覧
┗317.ポートレイト・レター(16-20/24)

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16 :リヴァイ
2014/09/15(月) 22:32

 幾分遠い冬の日。凍む空。吐き出した白い息。悴んだ指先。首に巻き付けていた黒いマフラー。いつか消えそうだった存在が、確かな実感を伴い個として其処に在った。静かに微笑む。緩やかな口許。至極珍しい事に、その声は穏やかだった。甘い否定と冷えた肯定。いつだって、女は正しかった。あの時迄は。

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 記憶に新しい初夏の日。澄んだ空。暑さが絡みつき始めた首筋。惜しげも無く晒された白さ。数年を経て、初めて見る表情。明確な疲れを帯びたその眼差しは、弱々しく頼りない。常に纏う気怠い余裕を取り払って、小さく呟いた馴染む声。嗚呼、分かった。俺が助けてやる。応えない瞳。けれど震えたその睫毛に、女も人間なのだと知った。

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17 :リヴァイ
2014/09/29(月) 20:23

 淡々と沁み入る暴落音。そうか任せろと唯頷き、無言で刃を握り締めては空を駆けた先日。それは打ち震える程の歓喜だった。次いで届いた手紙には見慣れぬ文字の羅列。労る言葉に感情が灯らずとも、その物珍しさに差出人の名前を再確認した。見知った名前、馴染む字面。万年筆で刻まれる黒は滲んでいた。内地から此処へ届くまで、雨にでも濡れたのか。今ではすっかり乾いたその紙面をなぞり、先日抱いた歓喜を思い出す。嗚呼、これで。これだけで。充分だ。

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18 :リヴァイ
2014/09/29(月) 21:30

­­ 一行にも満たない言葉を綴っては破り捨てる。送れない手紙が積み重なる。部下の呆れた眼差しを受けながら、それでも俺はこれ以上筆を動かせなかった。

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19 :リヴァイ
2014/10/15(水) 12:28

 これだけで充分だと実感したのは、先日の話だ。所詮は俺もクソみてえな人間だったと云う、唯それだけの話なんだろう。欲に塗れたクソ野郎だ、己の望む侭行動する愚かさを身に染みて知った。女は呆れたように笑って、それが別れの合図だと言葉が無くとも悟れた。積み重なった手紙の枚数を数える。今後も増える事はある筈だ。内地へ馬を走らせる事が無くなる、そんなちっぽけでくだらねえ、けれど俺にとっては意味のある、小さな変化。女も生身の人間だった。認めよう。欲しかった。

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20 :リヴァイ
2014/10/22(水) 19:56

 思えば、改めて伝えた回数は至極少ないように思う。最早記憶にさえ残ってねえ程、遠い過去なのかも知れねえ。その点女は未だ利口だったのか。時折思い出したように綴られる感謝の言葉に、俺は慣れない侭此処迄歩んで来た。声を発する事も無く、唇の動かし方を忘れた日。あの時に、伝えられりゃあ良かったんだろう。紙面ではなく、直接届く言葉として、一言紡げりゃそれで良かった。

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 女は内地で生きている。内地に住む貴族として、生きている。それは今後も何一つ、変わる事は無い。内地には内地の世界があり、貴族には貴族の生き方がある。地下で育った俺と、調査兵団で巨人を削る俺と、どれだけ異なる視界が広がっているのか。どれだけの時間を積み重ねようと、俺が女の世界を理解する事も無ければ、女の視界を知る事もねえ。同時に、女が俺の世界を理解する事も無ければ、この視界を共有する事もねえと知っている。全ては交わらない。平行線を辿る。けれども愉しそうに内地での生活を語る女が、俺は嫌いじゃなかった。普段は何も灯ってねえその冷めた眼差しに、不似合いな熱を滲ませるその一瞬が、中々悪くねえと。そう、思っている。

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