「狂って」
墜ちるばかりの余の足に、艶めかしくそれは絡み付き、爪の先から溶かされて行く。繊月の如き狐の眸に、喰らっているのはどちらだったかと錯覚した。
繋いだ手指だけがまるで初々しく、お前が
「すき」と口にするたび、あの日あの夜、余の世界の色を変えた、あの瞬間を思い出すのだ。何度でも、何度でも。
白珠。お前のすべてが愛おしい。
華燭の典。(捏造、独自設定多)
豪勢に飾り付けられた星槎に乗り、天舶司まで花嫁を迎えに行く。星槎の行く先々で鐘が鳴り、羅浮にこだまして、余の到着を花嫁に報せてくれる。良き日であった。
開いた門の向こう、翠色に染まる花嫁衣装を纏った白珠は……美しかった。語彙を掻き集めても、そのうつくしさを喩える術を余は知らぬ。
花弁の舞う道を往き、祝福を浴び、口を開けば幸せだと笑う白珠に余の多幸感も増して行った。神酒を飲み交わし、帝弓に礼を為してようやく……正式に我らは番となったのだ。
夜。星槎で屋敷に戻り、重たい装飾品を幾つも順に外し、一枚、また一枚と花嫁衣装を脱がし…その甲に接吻をした。夢と嘯く必要のない天蓋の中で肌を重ね、お前の総てが余のものになったのだと繰り返し言い聞かせて白珠を抱いた。愛する美狐の艶香に宛てられ、すべてを捧げる羽目になったのは余の方であったかもしれぬ。
角も、尾も、鱗さえお前に愛でられ狂わされていく、その道程の、なんと悦ばしく気持ちの好いことか。
忘れられぬ夜がまた増える。何百年先までも、この身がお前だけを覚えている。
楓妃、あなたが与えてくれた新しいあたしの呼び名。あなたのものになったのだと、そう自覚をさせてくれた。天蓋の中のあなたはあたしだけが知る特別なあなたで。あたしその表情が一番好きです。あの晩のように繋いでくれた手も、あなたが何度も“白珠”と呼ぶだけであたしの心は満たされて、あなたの熱にずっと浮かされた儘。幾久しく、どうぞよろしくお願いしますね。Dan Feng