かなり間が空いちゃったけど、
>>30の続きだよ。
体も動かないし、誰にも連絡できないしで、とにかく歌うことしか娯楽が無かった。そんな時に誰かが急いで入ってくる気配があって、まあ医師やお見舞いに来る人も居るから気にも留めてなかったんだけど、それが突然、俺の名前を呼んだんだ。見れば翠縹の彼がそこに立ってて、俺は「え、」って声を上げた。彼は寄ってくるなり崩れ落ちて泣き始めて、俺は動けないからどうしてやることもできなくて困って、「……リンクパール壊れちゃった!」って連絡できなかった言い訳をした。きっと、すごく心配してくれてたんだろうな。優しいもんね。俺の手を握って「生きててよかった」って言った翠縹の彼はまだ泣いてた。泣き虫だね。
彼はまめにお見舞いに来てくれた。いつも俺が欲しそうな物をバッグにパンパンに詰めて持ってくる。「何か他に欲しい物はあるか?」って聞かれたから、「酒」って言ったら「それはだめ」と却下された。でも、こっそりリキュールが入ったチョコを差し入れしてくれた。嬉しい。
前に彼が故郷に帰れなくて彷徨ってた時のこととか、今回のこととか……色々思うことがあって、野戦病院を退院したころ、俺は「エタバンする?」って持ちかけた。ぽかんとした顔してた。誰かを懐に入れたくないって散々言う俺が、そんなこと言い出すなんて夢にも思わなかったんだろう。
「そうすれば、何かあってもすぐ駆け付けられるしさ。君がもう指輪は要らないなって思ったときに捨てても俺は別に文句言わないし」ってやけに早口で言って、ふらっと寄った花屋で薔薇を包んでもらって、彼に渡した。
「俺は、捨てないから」
って言ったら、彼はそれはもうぼろぼろ泣いて、
「死んでも捨てない」
って言ってた。やっぱり泣き虫だね、__。