もともと言うほど飲む方でもねぇけど、まぁ付き合いでぼちぼち、自分でもたまに、くらいか。種類は割となんでも。ワインとかウイスキーが多いが、ビールとか甘いカクテルも飲まないわけじゃねぇかな。
でも最近はなんだかんだ控えてる。理由は明白で、先生からお呼びがかかるかもって。迎えに行くのはもちろんだけど、先生の職場から先生の自宅への送迎までしてる健気な恋人だったりする。笑えよ。
寂しいからちょっとでも会いてぇ、玄関先でおろして部屋に上がったりしないから送迎だけ、って少し上目遣いにおねだりした。年下の可愛げを最大限に発揮して。呆れたように、諦めたように、仕方ないなと言わんばかりに。個人的願望としては少し嬉しそうに、も付け加えて、そんな様子で許可を下ろした先生が日付変更前に仕事が終わった日は連絡をくれる。うちに来るのか自分ち帰るのかはその日と翌日のスケジュール次第だけど、お呼びがかかれば大概は尻尾振って出かけてる。だから、連絡来るかどうかの時間までは酒飲めねぇんだよな。今日はパス、ってオレが断ったところで先生はなんとも言わねぇだろうけど、せっかく声かけてもらってんのに断るのはなんかな。つうか、オレが会いたい。尻尾振って駆けつけたい。職場から家までの十分ちょっと、ホントは遠回りしたい。眠たそうにしてるから寝かしてやりてぇのに話したい。手を繋ぎたい。キスをしたい。ホントはもっと……なーんてな。

先生に日記の引っ越しの話をしてたんだ。ちょうど切りの良い日だったからってだけで、新しい日記があるから気が向いたら探してみてくれってそんだけ。そしたら急に
>日記、少し前まで書いていた
とか抜かしやがるから。
はぁ？何いってんだこいつ？
いやだってそうだろ。聞いてねぇし。しかもよくよく聞いたらほんとに最近までやってらしいんだけどちょっと待てよ。いや、お前日記とか書くことあんの？？あんだけ興味ありませんみてぇな顔してただろうが……
>急に日記の話になったから気づいたのかと思った
>あなたには見つからないだろう、って書いていたが本当に見つかっていなかったようだな
>ちなみに削除済みだ
いや……え！？はぁ！？
つうかさ、見つからないだろう、ってのは最後見つかるか、教えるか、そこまでセットだろうが普通。誰が見つからなかったな、よしよし、って消すんだよ。どうなってんだよ。
しかも聞いてみたらちょうどオレが忙しくしてて日記とか読めてない時期だしよ……話聞く限り見かけた気はするんだよな。ちゃんと読み込んでなかったけど、読んでたら気づく程度の内容だったらしい。あーあ、惜しいことしたわ……。つうかマジで、お前が日記書くなんて聞いてねぇんだけど？
>あなたといると日記を書くような暇もないからな
それはつまりオレがお前の相手できてなかったから書いてたって話か？
>……私は気まぐれだからな
おいこら。露骨に逸らすな。
まー、オレもあれこれバタついてたから文句は言えねぇか……でもホント、そういうのはまだ日記があるうちに教えてくれ。もしくは秘密にしといてくれ。割とマジで凹んだりしてる。いや、これは自分の不甲斐なさにだけどな。
>そんなに落ち込むならまた書くか…
妥協感がすげぇ。でも正直嬉しかったりする。先生の日記何気に見たことねぇんだよな。
>書くのは良いが、見られるのは恥ずかしい
まぁ気持ちはわかるわ。
>こんなに日記を書いているのにか？理解に苦しむな
うるせぇんだよ。

そんなわけで先生が日記を書いてくれるらしい。楽しみだ。
>千切れんばかりに尻尾を振るな
って言われそうなくらい。

蛇足

ホントは先生がオレに見られてねぇだろうと油断してた姿が見たかった。今更言っても遅いけど消された日記見てみたかった。知らん顔で書いてる澄まし顔を盗み見たかったんだ。だってそんなの絶対ぇカワイイだろうが。

先生にしてやられて悔しいんだか恥ずかしいんだか……ともかくかき乱されてムカ付く。アイツぜってぇ笑ってんだろ！！

つうわけで上げとく。



ネタバラシも済んだわけだし色とか若干変えるか。色々細かいとこ仕上げたい気もする。
先生もなんかあるなら言えよ？書いてもいいし？

あー……言われて気づいたけどここパソコンからみたらどうなんの？表紙のやつめっちゃ小さくならねぇ？難しいな。

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さて、桃である。
剥いてやると言えばぎょっとしたがあなた、私をなんだと思っている？問い詰めると
>生活力のない（社会不適合の）医者
（注釈　（）内は顔に書いてあるので補足しておいた）
とあんまりな返答。流石に不服だが？私は医者だぞ。こう見えて人間相手の職業なので世間話くらいはするし、四六時中刃物を扱っているからな、あなたより刃物の扱いには長けている。桃を剥くくらいわけないが？
ここで正しい（のか知らないが手間のかかる）桃の剥き方をレクチャーされたが湯を沸かすのも氷水も面倒だろう。普通に果物ナイフで剥いたほうが速い。マヌケがメスじゃねぇのか、と呟いたがあなたはメスをなんだと思っている？あれは医療器具だぞ。
おそらく彼の想定外に私が順調に桃を剥いたので驚いている様子だった。馬鹿め。桃の剥き方は知っている。母親が桃が好きでよく食卓に並んだと言えば、へぇ、と感心と興味のなさの間のような抜けた声が返ってきた。心配する親のように、あるいは構って欲しがる子どものように横についてくるので、一口大に切った端を果汁で濡れた指で口元に運んでやる。あまい、と柔らかい発音で味を形容するのが愛らしかったので、もう一切れ。それからもう一切れ。そして自分の口元にも。

二玉もあれば皿にこんもりと盛ることになった。そのまま食べるのかと思ったがいそいそと冷蔵庫を漁り、葉物野菜とトマト、モッツァレラチーズと生ハムを並べて来た。なるほど、サラダにするのか。手伝おうかと思ったが桃を剥いたので満足したらしい、あとはやる、というので任せてしまった。まあ、重病人でもないからな。甘えたかっただけなのは知っている。材料を切ってボウルに和え、塩とオリーブオイルでシンプルに味付けしていく。皿に盛り直せば随分と洒落たサラダになって、適当にカットした桃も、彼が剥いたのならばキレイに切り揃えられていたのかもしれないなと思う。
片付けようとするので桃の皮と種は回収する。適当なカップに水とともに入れて冷蔵庫にしまうと不思議そうな顔をする。これは母がよくやっていたことだが、ナイフで剥くと身が残りやすいので、一晩ほど水出しにしてその水で紅茶を淹れると美味しい。ほんのり風味がして好きなので、と言えば感心したような顔をする。おそらく湯むきで皮だけにしてしまうとあまり風味が出ないと思うが。……まあ、家庭の味というやつだ。
というようなことを言うと少し切なげに目を細めるのがいじらしくて好ましいが、少しばかり寂しげで。色々考えすぎだとは思うが、そこがこれの美点でもあるからあまり追求しすぎないようにしておく。
かくして出来上がった昼食代わりのサラダを食べるのを眺めながら、午後は空調の効いた部屋でぼんやりと過ごした。たまにはこんな日も良い。食べたら腹が膨れて眠くなったらしいので、寝室で寝かしつけてついでにつられて寝ていたらしく起きたら夜だった。挽きたてのブラックペッパーとすりおろしたにんにくで味付けた肉の焼ける匂いがする。ワガママ──というほどでもないささやかなお願いを聞いてやったから機嫌がいいらしい。夕飯はステーキのようだ。