スレ一覧
┗151.空腹を食べる《R20》(11-15/284)

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11 :ユミル
2013/09/10(火) 13:51

囀り






何もかも、全てに全力を注げる程、私は器用に出来ちゃいない。現に今も自らの掌で己の首を雁字搦めにしているなんて、笑うよりももう呆れすらしてくる。

振り返ると今も続く足跡は、出発地点が随分遠くて目を凝らしても見えそうにねぇ。あの頃の自分はまさかこんなにも、遠くへ来てしまうなど思いもしなかっただろうな。良くも悪くも純粋だった、文字通り。


どうして今はこんなにも息苦しいのか、あの頃の私ならその答えを知っているだろうか。


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12 :ジャン・キルシュタイン
2013/09/13(金) 12:14

イン墓場






一つ、目を合わせないこと。
二つ、言葉を交わさないこと。
三つ、手を伸ばさないこと。

最後の一つは、一つは……


ああクソ、最近は羨ましくて仕方がねぇなんて。一体オレはどうしちまったんだ。
今日も一人楽しいぜ寧ろ一人の方が気楽だヒャッホーイ!!とかやってたバカなオレはどこへ行った。残されていたのは「探さないでください」というお決まりの書き置き。おいおい、これがどういう意味か考えたくもねぇっての…!

…オレはオレで楽しくやってんだ、だから、別に、羨ましくなんて……


(どちらかのお嬢様、結婚を前提に是非お付き合いをよろしくお願いいたします)


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13 :エルヴィン・スミス
2013/09/17(火) 20:32

下がらない微熱






唯一がいない身と云うのは、良くも悪くも身軽なものだ。
気の向いた時に誰かと会話をし、熱が上がれば体を重ねる。そうして一晩だけ、独りではなく二人でいられる。

何が良かったのか幾度かはその後もと声を掛けられはしたが、伸ばされる手を掴む事は避けてきた。
だってそうだろう、こんな荒み切った年寄りの相手などさせられるものか。君には私よりもずっと、相応しい相手が現れる。


…何て、恰好を付けているが実際、ただ繋がる事が怖いだけなのかもしれないな。

そうして月を見上げる今日も独り。
淹れたコーヒーが常より苦いのはきっと、この身が疲弊しているからだと思う事にする。


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14 :ジャン・キルシュタイン
2013/09/19(木) 17:07

酷く苦い






ひと月前、オレはアイツと出会った。
第一印象は、別に何て事のない。ただの暇潰しのように書き散らした募集文への応募。向こうだってそう、深くも考えていなかった筈だ。

それから毎日言葉を交わすようになった。
それは他愛のない話だったり、時折気紛れに甘い言葉等も交わしたりして。少しずつ、少しずつアイツはオレの日常へと変わっていった。




…こんな所見ちゃいないだろうから、正直に白状する。
オレはアイツに惚れかけていた。そうして、アイツの方も恋愛感情で無くとも多少なりオレに好意を持っていてくれているのだろうと思っていた。このまま時間を掛ければ間違いなく、オレの口はアイツへピンク色をした言葉を伝えていただろうな。

だがしかし、そう話は上手くいくわきゃ無かったんだ。
何でもない会話の延長上で、オレはそれを聞いてしまう。既にアイツには大事にしている恋人がいるという事を。
はは、ぶっちゃけた話、それを聞いた時は頭が真っ白になっちまったよ。しかも二人だけの部屋も持ってるなんて、こりゃオレの入る隙間なんて最初から何処にも無かった訳で。

とんだ勘違い、穴があったら入ってそのまま埋まっちまいてぇくらい。
アイツはオレを大事な友人だと言ったそれがまさに、処刑宣告。蕾にすらならなかったオレの恋心、呆気なく撃沈。


…頼むからこれからも、オレの痛々しい想いには気付かないでいてくれ。


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15 :ジャン・キルシュタイン
2013/09/21(土) 05:15

くろねこのはなし






朝晩がやっと涼しくなってきて、オレは最近ほぼ毎晩散歩へと出ている。昼間とは違い静かな空気と、頬を冷ます風が心地いい。

目的なんて特に無い。財布も持たずにプラプラと出歩く時間は、何を飾り立てるでも無い唯一のオレだけの時間だった。
ふと歩く最中に目に留まった公園へと、気紛れに脚を運ぶ。広くはないそこには誰の姿も無くて、吸い込まれるように無人のベンチへと腰を下ろした。


…暫く、そのままぼんやりと空を見上げる。
瞬く星は数日前に見たものよりも鮮明に見えているようで、ああまた冬へと近付いているのだと知る事が出来た。
時間が経つのも忘れてぼんやりと上を向いていると、不意に聞こえてきた物音に我に返る。視線を移すと草むらから現れた一匹の猫、その姿は闇へと溶けるように真っ黒だ。
猫とは目を合わせてはいけないとどこかで聞いた気がしたけれど、その時のオレはそいつから目が離せないでいた。首輪をしていないところから察するに野良であるんだろうが、そうとは思えない程にとても毛並みがいい。

どれくらいそうして見つめていただろう。するとこちらを見ていた猫が、すっと身を翻す。それにオレは思わず立ち上がり無意識に半歩前へと歩を進めると、チラとこちらを振り返る瞳。
思わずその場へと固まるオレの足元に、歩み寄る猫はするりと尻尾を絡ませてきた。突然の出来事に声すら出ないオレを、それ以上興味は無いとでも言いたげに今度こそその場から消えていったのだった。


これが、始まり。
この日からオレと黒猫の奇妙な逢瀬の日々が、始まったのだった。


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