随分と書類の底へと、埋もれてしまったそれを掘り出してみた。 ああ、ペンにも薄らと埃が積もっているな。 若しかして唯一でも出来てそちらへ勤しんでいるのだろうかと、そういう心配はただの杞憂だ。任務へと駆り出されていたり、少し体調が下降気味だっただけ…これだから年寄りは。 室内の掃除すら儘ならない現状だが、独身だからという言い訳もそろそろ辛くなってきている。これでは可愛らしいお嬢さんすら招く事が出来はしないではないか。 |
相も変わらず、飽きもせず、オレは毎晩黒猫の元へと通っている。気紛れなオレの訪問にもアイツは気にした素振りも見せず、同じくふらりと姿を見せるのだ。そう言えば過去に数度、オレが向かうよりも先に部屋の扉の前にいることがあって…その度に驚かされた。 最近寒くなってきたからだろうか。こちらが触れずとも膝へと乗り、たまにそのまま眠ることがある。珍しい寝顔に、顔が緩むことを止めるなんて出来なかった。 …分かっている、コイツも気紛れなのだ。いつの日か誰かが気に入って、連れ帰ってしまうかもしれない。それを少しでも阻止しようとして、オレはもしかしたら毎晩と通っているのかと思うと……この猫の幸せを何より望んでいる筈なのに。 今晩も、会えるだろうか。 何も持たずに向かっても、姿を見せてくれるそいつに…オレはいつからか甘えていたのだと思う。 |
ちかちかと点滅しているのは、 赤なのか、青なのか、それとも、 |
ほんの僅か、手を伸ばすだけで手に入るものはきっと少なくないのに。 深くへと伸ばせないのは色々と、あるからなのだと。 分かってる、それはただのオレの…… |