朱に交われば何とやら。 それなら私という色と交わると、一体君は何色になるのだろうか。 ……何て、唯一が出来た時にでも聞いてみようかという予行演習。 |
口から真綿をぐいぐいと押し込まれているようだ。 呼吸が出来ない、苦しい。 ……なあ、時効があるならそれは一体何時なんだろうな。考えてみたところで答えなんざ出る訳もねえのに、未だ俺は此処から抜け出せちゃあいない。 おい、そこのお前。哀れむなら菓子をくれ(一日遅れのハロウィンだなんて) |
自ら傷を抉るような好意を、好きだなんてヤツはそういないだろう。今のオレはまさにそんな状態。じくじくと未だに膿んでいる傷口を掻き毟っている。 兎に角新しい一歩をと、踏み出す足取りは軽くはない。これだから唯一も出来ねえんじゃないかと自問自答を繰り返す日々。増していく寒さの所為か、最近は自棄に人恋しいなんて。 お前は楽しそうだ、オレがいなくとも。いや、つーかそれ程の存在になっていても逆に困るんだけどな。 この傷を塞ぐのは時間だけ、あとはそれ以上の想いだと経験から知っている。忘れるなんて事が一発で出来りゃあ楽なんだろうが、そうなるとオレの泡みたいな想いが本当にただ消えていくものにしかならないから。 まるで棘を飲み込んでいるようだけど。 それだってきっと何度か繰り返せば慣れていく筈だ。これも経験から、恐らく間違いない。 ……ああ、だがその痛みだけはいつまでも無くなっちゃくれないんだ。 棘を飲み下した腹が痛い。 |
さて、久し振りにあの子の話でもしようか。ああ、あの黒猫の。 私との接点は相変わらず、毎晩と運ぶ脚も変わらない。 ただ最近は、顔を見せたとしてもすぐに踵を返す事が多くなってきたと思う。昔からある歌にも言われているように、どうやらあの黒猫も寒さに弱いらしい。 出会った当初より気を許してくれてはいるんだろうが、如何せん寒気には勝てないのか…気付けば私の膝上から身を消している事が増えてきた。 つい先日までは此方の方が眠気に負けて、自室へと戻っていたのに。ああ、冬と言うものはやはり色々と残酷である。 |
幼き頃、たまに与えられる甘い菓子がとても好きだった。誕生日に用意されるのは決まって、隙間なくブラウンで埋め尽くされたチョコレートケーキ。年に一度のそれは子供の自分にとって何よりも楽しみで。 口一杯に頬張ると拡がるのは甘さという、幸せ。 けれど何時からか、甘いそれを口にする事が苦手になっていった。今や傍らには砂糖を含まない珈琲が置かれている。 これがもし大人になるという事なら。 薄く瞳を閉じると過去の屈託ない笑顔が脳裏を過り、あの頃の自分を少し羨ましくもなった。 勿論、此処で苦みの強い珈琲を飲んでいるのも間違いなく自分なのだ。 変わらないものと変わりゆくもの。 どちらを大切にしろだなんて私には分からない。ただ一つ、私は私自身も、大切にしていきたいと思った。 幼く笑っていたあの姿も、私には変わりないのだから。 |