気付けば走り出していた、目的地なんて決まってすらいないのに。 ただ気持ちが急いて仕方がない。 はやく、はやく。 どこへ、はやく? なあ、オレの声は届いてるのか。口を開けてもそこからは、掠れた音しか出やしないけど。 |
必死な顔で言い訳をしてる。理由はね、一つじゃない。 例えば今見えているこの世界が、きらきらしたりどろどろしたり、くるくるくるくる回っていくの。苦しかったり、楽しかったり、嬉しかったり、哀しかったり。 ああ、きっと、踏み出す時は僅かに怖いもの見たさ。私の恋は、そういうものだった。 |
特別な物なんて何一つ使っていない、有り触れた材料をただひたすらに捏ね回す。 俺にとって思考を巡らせるというのは、呼吸をするという事と同義──ではない。必ずしも無ければならないのでは無く、恐らくはそれを停止してしまっても変わる事無くこの身は鼓動を刻み続けるだろう。 それならば一体どうして止められないのか、無くしたとしても何ら問題は無い筈なのに。 …宛らそれはセックスに似ていると、思う。当然個人的な感覚ではあるが。誰かと肌を交わす行為は、脳に浮かぶあれそれを捏ね回す作業に。 触れて、嗅いで、舐めて、更に奥へと。 突く度に上がる誰とも知れない嬌声は、際限無く自身の中から湧き上がる思い。そして最奥で果てた時と同じく感じるのだ、ああ、そういう事だったのかと。 まあ、実際のところは右手と宜しくしているだけなのだが。これもある意味独り遊びだ。 散々と捏ね上げて成形したとしても出来上がる物は無味無臭。俺の敏感過ぎる鼻ですら、何かを嗅ぎ当てられた事は一度とない。 放った後には何処か、虚しさすら残る。 |
すでにイビキを立てて眠る同室のヤツらを尻目に、一人こっそり兵舎を抜け出した。 昼間より随分と下がった気温に、剥き出しの耳が冷えて痛い。思わず掌でそこを塞ぐとひゅうと風が通り過ぎた。 あと数時間後、また夜が明ける。 太陽が顔を出すほんの少し前に、まるで一色の絵の具で線を引いたかのように色付く地平線を見るのが好きだ。 一瞬しか見られないその光景は、何度目にしても決して同じ色にはならない。今日と同じ、明日はないのだ。 |
Bücherregal
Weiß
Grau
天泣.
Schwarz
予告なく増やしていくつもりだ。此方からの愛読に返しは特に必要無いとだけ。
私の方からは棚入り、と共に漏れなく草葉の陰からの見守り付き。
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