おはよう、おやすみ、いってきます、いってらっしゃい、ただいま、おかえり。
一つ一つの挨拶を出来るだけ欠かさずに交わし、埋める事を、俺とお前の間では「花丸をやる・貰う」と表現する。あの時冗談半分で言った俺の言葉が、まさか此処まで長く続くとは思わなかったのが少しの本音だ。

>挨拶をする→花丸を貰う→ご褒美

この大変明快な筋道は単純思考のお前には打って付けだったんだろう。言っておくが褒め言葉だ。

此処で言うご褒美とは俺の言葉を指す。以前も、今も。
ああ…本当にお前は、俺が好きだな。

だが、今日久しく話題に上ってやはり花丸を目指しているというお前に既に幾つも言葉を連ねている事は未だ、言わないでおく。
――…何故か？貰おうと躍起になってるお前が……、察しろ。

比較的、冬は唇が荒れやすい。
今朝方の手紙で唇が切れたと報告され、先ず最初に思い浮かんだのが…あの美味そうな唇が暫く食えなくなっちまうのは頂けない、そんな感想だった。
下手に舐めて弄って、悪化させたら元も子も無ぇだろう。少しの時間、辛抱を覚えるとする。
そう思ってもお前の唇を眼にしたら、多分食わずにはいられない。

…軟膏でも持ち帰るか。何の味が好みだろうな。
ついつい甘そうな匂いに手が伸びる。その唇で、味わいたいが故に。

押し付けた軟膏はその手の中に。
勝手に傷作るんじゃねえ、俺のだ。


>>>
…分かった。お前が可愛いのはよく分かった。
詰るのか喜ぶのかどっちかにしろ。

溺れたくない、溺れそうだとあと一歩を懸命に踏ん張るお前が、少しだけ溺れた。あの間際。

…前に、言ったろ？どう好きに使おうが扱おうが、俺は其れがお前なら何だって良い。何でも寄越せ。

震える指で撫でて、そのくせひと思いに噛み千切ろうとするお前が好きだ。全く以って、惚れてる。

…お前の理性は、偶に邪魔だな。