何、やるんだっけ。
片付け。暗譜。飯作り。明日渡す金用意して、後、何？取り敢えず曲だけは覚えなきゃヤバい。明日は出来ないからやらねえと。片付けは最悪布団で誤魔化そう。どうせ今吉だし、いっか。



猫の手も借りたい！

終わる。やっと終わる。
昨日が最後の練習だったけど全然実感がなくてフワフワした浮遊感だけがあった。帰って布団に入って、普通に寝れてしまって。起きてベース触って。今電車に揺られながらも、帰って来る頃には終わってるんだと思うと不思議で仕方が無い。
何を話そう。最後だもんな。ステージからの景色、どんなんだろう。違う違う、何、言うんだっけ。先輩と後輩にありがとうと、他大の奴にありがとうと。嗚呼そうだ。友達にもありがとう、だ。手紙を渡して。オレずっと辞めたかったんだ。バンド何か好きじゃねえし、音楽演る位ならバスケしたかった。昔ピアノ習わされてたけど嫌過ぎて辞めたんだって。辞められねえ立ち位置だから続けてきた。責任感と義務感だけだよ。何回も泣いて何回も吐いた。嫌いだった。なのに皆優しくてさ。オレが泣いても抱き締めてくれてさ、頭、撫でてくれてさ。気遣ってくれて。褒めてくれて。赦してくれて。明日にでもスタジオに入ってそうなのに。一限眠い目擦って幹部会してそうなのに。もう、無いんだって。でも、いや、だから、さ。いざってなると。さ。ホラ。



終わりたくないなあ。

実感が無い。
オールから帰ってきて、昼迄寝て、来週の曲を耳コピして。走って電車乗って今からスタジオ。何も変わってない。……って言うのはきっとオレが認めたくないからそう思うんだ。後輩の涙を拭って遣りながら少しだけ終わりを感じた。もうあのステージに立つ事は無い。あんなに最高の景色を見る事は、一生、無い。
ほんのちょっとだけ自分の頑張りを赦された気がした。身内ライブ何て、先輩後輩が前に居て、少し離れた所にポツンと他大学が居る。そんなモンだろ。そんなのばっかり。それなのに皆忙しい中来てくれて、「前に来て」何て言わずとも最前列や前を埋めてくれる。後ろで座ってる奴は一人も居ない。他人と話すのも距離を詰めるのも得意じゃ無い。寧ろ苦手だ。喋れる人見知りだよ。それでも頑張って来て良かった。



人生で一番、最高な景色を。

ベース弾いてる。こんな必死に成って前日に暗譜する事も当分無いんだろうなあ。有り難い様な、寂しい様な。夏頃迄出演予定は無いから実質のライブ納め。
「案外お酒強いんだね」甘ったるい香水を纏う女性に言われた。そうかな？オレ、結構弱いよ。どうやら信頼してる人の居ない場では酔いは回らないみたいだ。何て言わないで笑って逃げた。香水のキツい女性は苦手だ。シャンプーの香りを纏え、何て無茶言わないから、せめてあと二プッシュ少なくしてくれ。
ところで昨日熱で練習を飛んだオレには人権が無いらしい。分かる。分かり味が深過ぎるな。オレと宮地に人権は有りません！ハイ！飲みます！！先輩に「由孝と清志は取り敢えずアブサンな、バンドメンバー分」って言われたから死ぬつもりで行く所存。アブサンって度数七十パーセントらしい。燃えるじゃん。せめてアブサンをテキーラで割って欲しい。ソフトドリンクで割ってくれ何て我儘言わないんで、せめてテキーラでお願いします。八杯飲んだら多分オレは死ぬから今吉に後を頼もう。マジで頼む。電車に放り込んでくれたら根性で帰るから頼む。



アルコールで誤魔化して。

久し振りに初見の人が多い空間だ。緊張する。でもそれ以上に眠い。寝坊は免れたから人権復活しねえかなあ。欠伸が止まらん。電車の揺れってこんなに眠気を誘ったっけ？
変な人が居ないと良いなあ。未だ少しだけ怖い。平気だし、その場になればニコニコ笑顔で対応出来る自信だけは有るんだけど、いかんせん完全にトラウマだ。酔わない様に、しないと今吉に叱られちまう。何でお前が怒るんだって感じだけどさ。



大丈夫。
きっと、大丈夫。