「そういう見た目何だから、」よく言われる。知ってるさ。極端に不細工でなくてある程度の顔面偏差値、軽そうで手軽そう。遊び相手にピッタリ何だろう?何に遭っても何をされても自業自得。そうだな、自衛の欠如かも知れない。認めよう。でもさ、いきなり隣の奴に襲われるかも知れないとは人間誰しも予測して生きてないじゃないか。
コンプレックスしかない容姿なのに、文句を垂れれば皮肉や自慢と捉えられる。黙っていれば調子に乗ってる。ニコニコしていれば媚びた面。巫山戯れば軟派野郎。何が正解なのか。性格の問題?ッハ、ご尤も。リアリズムの空想家さ。
こんな性格になりたくなかった。容姿に生まれたくなかった。あわよくば受精卵になる前、精子が卵子に到達する前まで戻りたい。嫌いだ、と、零した矢先に「勿体無い」って後ろ指。世界は今日も厳しいらしい。
どうにでもしてくれ。
オレはもう、疲れたよ。
スタジオ前に飲みに行くらしい。
案の定連れて行かれる。今吉は起きたら来るみたいだけど無理に一票。彼奴等と飲んで酔わなかった日が無いから練習前に飲むの、割と怖いんですけども。可愛くチューハイとかサワーで済ましとこう。
実はアルコールが弱い今吉はいつも三杯迄って決めてるらしい。偉い。何でオレ毎回潰れてるんだろうって考えたけど、キャラ上飲まされるからだった。日本酒一気は良いとして、せめて御猪口が欲しいッスよ、先輩。「此れが御猪口だぞ」じゃねえんスよ、先輩。それ、コース料理のサラダが入ってた大皿ッスよ、先輩。大学生怖い。日本酒は水で本気の体調不良にもアルコール消毒。吐いたら復活制度。もう一回言います、大学生怖い。三回生も終わりつつあるけど大学生怖い。大学生になって上手くなったのは酔っ払いの介抱とゲロ処理。オレ、就職して職場の飲み会とかあっても生き残れる自信がある。履歴書の長所欄は此れでいこうかな?有りでは?
でも隣の笠松はビールサーバーで飲まされてたからオレは未だマシなのかも知れない。ドンマイ、笠松。お前の骨は拾ってやるよ。
五%で酔ったからさ、
五%くらいは信じてよ。
凄くシンプルに疲れた。
仕事を溜め過ぎると後々死ぬのは分かってたけど、分かってたからこそ目を逸らし続けて今日に至る。向き合ってくたばるかと思った。オレ絶対税理系の仕事向いてねえや。
泣き出したい衝動と逃げ出したい衝動に駆られてる。さて、どうするか。取り敢えずスーパーで値切られてるシール付きの鶏肉を買ってきて香辛料と塩胡椒で焼いてビールでもキメようかと思うんだけど、どう?何だか酒に酔いたい気分何だよ。今吉は「酔った事が無いから酔いたい気持ちが分からへんわ」って言ってたけど、多分そっちの方が平和だから分からなくて良いよ。だけど酔わしてくれよ。
携帯電話を置いて、旅に出たい。
「なあ、酔ってる?」分かんない。でも素面じゃない。「やと思った」。
久し振りに二日酔い。四時に目が覚めた時から予感はしてたけど、午前中一杯頭が痛くて死ぬかと思った。最近本当に弱くなってきてる気がするから控えないと。
夏頃の会話を思い出した。その時は今吉が先に酔って、回復したと入れ違いでオレが酔った。兎に角心配されて、「終電逃したら迎えに行くから言うてな」「ほんまに気を付けるんやぞ」「何かあったらすぐ言うこと」あの時から今吉は過保護だったなあ。最近は更に過保護だけれども。今吉の言葉を借りれば、所謂心配しい。
不器用で、狡くて。御免。
三月一日、就活解禁日。少し前からタイムラインは大賑わいをしていて、誰かが「就活は授業の持久走みたい」だと言ってた。曰く、皆一緒に走ろうねと約束するけれど実際途中から切り捨ての世界になっていくんだと。少しずつ変わりゆく現実が怖くて、楽しかった少し前に縋りたくなる。
そんな中同じく就活生の筈の今吉は日付が変わった四分後に返信が来て吃驚した。いや、エントリーしろよ。オレとの連絡を開くんじゃなくて就活サイトを開いて下さい。もう、知らんぞ!
「今吉と京都行く頃には引退してるんだと思うとエモくなってきた」「エモエモやなあ。森山忙しかったし頑張ったしお疲れ様やで」「待って、急にそんな事言われたらエモさで死ぬ」「まあ楽しもうや!」「今吉こそお疲れ様だし忙しいし大変な中だけど息抜き楽しもうな」「任せとけや!森山と遊びに行くの楽しみにしてブーストしてんねん!」あの今吉が頑張ったしって。思わずスクショしたしニヤけたから本人が目の前にいなくて良かった。
寂しい、切ない、怖い、不安。
秒針よ、もっとのんびり歩いておくれ。