¶:心、深く。 久しく開いたこの日記が人目に触れる事も無いけれど、近況について色々書いてみようと思う。いつかお前がこれを読んだ時に『オレが思っていたよりずっと成長してたンだなオマエ、流石は緑間サマ』とオレを讃えたくなるかもしれん。 友人が出来た。とても仲が良い、親友レベルだ。どうする?このオレに親友だぞ、どうだ――と浮かれていたからか、唐突に距離を置かれている気がしないでも無い。何故なのだよ。 次、コミュニケーション障害も相変わらずのオレが板挟みになるという。オレを間に置いた所で調和なんか取れっこないのだよ、早くオレを端に置いてくれないかと内心そわそわ。それでも、オレはオレの出来る事をして、双方に良い状態を保って貰えるように努めるつもりだ。オレが一方で知り得た情報も、それはたまたまオレが其処に居ただけなのだし、必要な事だけ伝えれば良い。嘘は吐いていないのだ、きっとこれがベスト――そう思うのだよ。 以上。……と、言いたい所だけれども、少し書いてみる。 未だに縁が続いていた事にも別段驚きも無かったけれど、相変わらずのお前が其処に居る事はオレとしても喜ばしい事――なのだろうな。というか、思ったのだが。あの頃より今の方が仲良くないか?名前で呼んだ事も無かったのに、今はそれが許される距離なのだろうか。いや、あの頃もきっと、オレにはそれが許されて居たのだろう。オレが勝手に、またいつもの『お前はそういう事は苦手なのではないか』と自重していただけであって。 思えば、オレはお前に嫌な顔をされたり、冷たくされたくなくて窺って、我慢していただけなのかもしれない。お前がオレに冷たいなんて有り得ないし、許せないのだよ。これがどんなに自分本位な我儘だとしても、そんな事は知ったこっちゃない。オレはお前にだけは否定されたくないし、拒まれたくない。いつも最後にはしょうがねえなって許して欲しいし、理解していて欲しい。勿論、オレが何か間違った事をした時には怒ってくれても構わないが、それでも、オレという存在を否定しないで欲しいのだよ。こんなに甘やかされているのに更にこんな事までとか、オレは何処までお前に委ねて居るのだろうか。そんな思いがずっとあったからか、お前が言う所の“自衛本能に欠けている”というやつだろうか?然しながら、お前に対して今更警戒するべきタイミングなど有るのだろうか。 心を許す事というのはこういう事なのだろうか、イマイチよくわからんが。というのも、お前が悪化させているのでは?と杞憂するように、オレにはどうにも許せない距離があって、未だに心を隠しがちで。そもそも、お前がそうして在りのままのオレを上辺だけの言葉じゃなく本当に受け止めてくれるだろうとオレでさえ信じて疑わないから、他所で心を許せなくなっている気さえする。 割と深刻な状況なのだが、どう思う? 今は何にも縛られず、お前と居る時も自分らしく過ごせていると思っている。今更取り繕う所も無く、その必要も無いしな。ソウルメイトは伊達ではないな、青峰。 まあ、そんな訳で。オレなりに信頼だか何だかを抱いているので、引き続きオレを理解しつつスイカの種をせっせと取るのだよ。秋になればオレに栗を剥き、冬になれば蜜柑を剥き、……まあ、そんな感じで。オレは代わりにおしるこの白玉をあーん、してやる。お前が風邪を引いた時にする看病の要領で、こう。嬉しいだろう?オレの手から白玉を食えるのもお前くらいの者なのだよ、喜べ。 |
¶:揺れる金魚、瑠璃の雪。 夏の思い出について。夏祭りに行ってきたが、祭りに2人で行くのは初めてだったな。忘れていたけれど、紫原達と遊びに行った時とはまた違う感じだったな。久しく逢うのに、至極自然に触れてくるものだから驚いた。それは、まあ……確かに、オレの左手が曝されて居たから気になったのかもしれんが、あの、指を絡める仕草とか。オレは相変わらず、そんな些細な事にさえ狼狽えてしまった。浴衣も、似合うと言われた色調のモノを新調してみたり、普段なら食べさせて貰うなんて有り得ないのに、何故だろう……差し出されたたこ焼きも、食べてしまった。あれは青峰が悪いのだよ、食べ易いように半分に割って差し出すものだからオレもつい、ぱくっと。歩調を合わせてくれたり、ラッキーアイテムの巾着を持ってくれたり、人混みを歩く際に手を差し伸べてくれたり。心地好い距離感と、見詰めた先に在る変わらない姿が不思議な心地にさせる。 誕生日も、祝ってくれた。『ふざけんなバカ』が可愛かった事と、甘えたい事にも気付けないオレを察して先回りして甘やかしてくれるらしい事が特に印象的だった。時々呼ぶ名前も、呼ばれる名前も、不思議と嫌な感じもせず。……去年も、とても悩んだ末に連絡をくれたな。イルミネーションの写真をくれたり、傘持って来いと唐突に呼び出されたり、変わらない所と変わった所。そのどちらも、心地好いとしか言えず、懐かしさとも少し違う何かを感じた。 いつも満たされた心地を抱くし、連絡が無くて不安なんて事も無く。オレに恋人が出来ないのも青峰の所為な気がしているのだが、これはどうしてくれるのだろう。あまりに青峰が心地好いので、他の存在と上手く付き合っていけないのだが……どうする高尾、オレが大分ダメにされているのだけれども。いや、今更だったか。 確実に今年もオレに恋人が出来ないな。知ってた。 |
¶:水溜り。 最近の総集編、的な日記。30日、リサーチがてら何が欲しいのか訊きに出向いた。特に欲しい物は無いようだったから、当初の予定通りラッキーアイテムだけ渡す事に決めた。翌日、予定よりも随分遅くなってしまったから、部活後にラッキーアイテムを抱えて届けに行ったら明らかな寝起き顔。自分の誕生日さえ忘れていた様子、……これは想定内だったが予想外でもあった。毎年友人達に祝われているイメージだったから、0時には行かないようにしないと、とか。昔とは違うから後に残るモノは控えた方が良いのでは、とか。オレなりに配慮して迎えた、不思議で、ちょっとだけ特別な日になった。去年は確か、時計ばかり見て過ごしていた気がする。 予想外というか、何というのか……頭を撫でられて、オレは何も言えなくなり、――端的に言うのならば、逃げた。祝えた達成感と、何だかんだ嬉しそうな姿。それを見ていて――というか、ほぼほぼ頭の件なのだが――形容出来ない状態に陥った為である。夏祭りの辺りもそうだったが、少し触れただけで可笑しくなる。 原因究明は後回しに、それからバタバタ過ごして今日。未だによく解らない。オレだけが可笑しいのだから、暫く会わない方が良い気がしている。何も望んだりしていないのに、どうしてこうなってしまうのだろう。些細な事も大切にしたくなって、噛み締めてばかり。……誰にも何も言われたくない。オレの中のお前は、誰にも触れられたくない。オレでさえ触れる事は出来ないのに何故、気安く話題にされるのだろう。触れられてしまうのだろう。 オレでさえ、触れないのに。 大切に想う事。その気持ちが何であれ、オレが自分で理解して、消化しなければならない。まだ暫く時間が掛かりそうなので、ゆっくりと整理していけたらと思うのだよ。 理解出来ない現象ばかりで、気付くとぼんやりしている。 |
¶:白紙のパズル、花と金木犀。 一息吐こうと口を開くと、喉の奥に何かが詰まったような。何かが飛び出そうとしているような、そんな心地を抱く。もう充分なのではないか?と、まだ人事を尽くせるのではないか?と。それはまるで揺らいでは消える気泡のように、波に呑まれそうで。 完成されたのが今、なのだろうか。 今日、桃井と出掛けてくる。2人きりで会う事も滅多に無かったが、これからは増える気がする。塞ぎ込んでいたつもりも無いのだが、気分転換に付き合ってくれるようだ。宮地さんも気に掛けてくれているのか、この頃よくメールを貰う。恋愛なんてとうに忘れ、解らなくなっているので、こうして恋愛とは無関係な関わりは酷く心地好い。高尾とも、久しぶりに出掛けたい。 明るい笑顔に癒される日々。これも幸せ、なのだろう。 |
¶:心を混ぜる指先。 朝っぱらから珍しい事をやらかした。自分の知られざる性癖が露になると、一気に目が覚めるんだな。勉強になったのだよ……そんな目覚めも仮初、眠いものは眠い。つまり、またうとうとしてきた訳で。悪戯に高尾を喜ばせるばかりで、最早オレは眠い時に何を喋ってもダメなのでは。暫くこのネタでからかわれそうで腹立たしいが、致し方無い。眠い時は寝る、これだな。 口が緩みっぱなしだ。これは酷い。 でも、まあ。高尾の恋人にも紹介(?)して貰えたから良しとしておく。高尾には青峰の事をいつか紹介して欲しい的な事を言われていたのだが、何と言って紹介するべきか判らないから多分、紹介はしないと思う。友人ではないし、よくわからん。そんなこんなで、唐突な三者面談。オレにも紹介出来る相手が居れば良いものを……すまない高尾、いつかオレの大事な奴に会わせてやるから期待しておけ。そんな兆しも更々無いのだが。 オレのモテなさ具合ときたら、もう。 偏執的にしか好まれないのだから、どうしたものやら。盲目的にではなく、もっと自然で心を震わせるようなそれが欲しい。好かれただけ有難く思えと言われたらそれまでだが、オレを(物理的に。)喰わんとし兼ねない程の熱量で愛されると正直重たい。身に余る。受け入れられない。有り得ない。 目に入れても痛くない、は喩えだ。実際にしても構わない寧ろしたい!くらいのそれで近付かれるのはちょっと、……平和になったと思い込んでいただけで、実際はオレが狂わせていたのだろうか。知りたくなかった。問題化したら高尾に相談に乗って貰おうと思うが、一先ずは少しずつ距離を置いて逃避、だな。疲れる度に青峰の声が聴きたくなるのも、いい加減やめたいものだ。青峰離れをしないといけないのだから、気軽にフラフラと近付くのはやめないと。 あの日の事を思い出すと、未だに和むし、何なら可愛くも感じた。可愛いというか、こう、愛しいような。抱き締めたいというのはああいう瞬間の事なのだとも思う、絶対にしないけれども。オレからお前に触れる事は有り得ない。それを自分に許せる筈も無い。だから、刹那を切り取って、心の中にぺたぺたと貼っていくのだよ。真っ白な壁に写真を貼るようなそれはまるで、秘密基地。大切に、大切にしまい込んで、オレだけで眺めていたい。 声を聴いたら会いたくなるから、写真だけ。こんなだからいつまで経っても“こう”なのだろう、……愛しいなんて、有り得ないのに。その指先で触れて欲しいモノは、いつだってオレの胸の奥にあるのに、触れられる事が恐ろしくて隠してばかり。オレから顔を逸らすお前を、オレには二度も受け止められない。だから、今以上なんて何も望んではいない。し、近付いた分、離れないと……触れたら、解ってしまう。オレにはどれほど特別な存在なのか、と。 やっぱりダメだな。眠いと可笑しな事ばかり言ってしまう。本当は解っていた。触れられただけで胸は騒ぎ、指先が震えた――その理由だって。それがかなしいとも思わない、当たり前の事だと解っていた事が恐ろしいのだと。そう、思った。 心を暴くには、充分過ぎるのだよ。 |