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┗2673.揺籃(6-10/118)

|||1-||||リロ
6 :阿近
2011/05/27(金)16:34:35

『お茶でも如何ですか?』 

靡く英国気触れの外套、哀愁を滲ませた白眼。

一方的に向けられる熱い眼差し、不覚にも目を逸らすことは出来なかった。

断る、という選択肢は最初から与えられていなかったに等しい。



天を仰げばどんよりとした鈍色が広がり、雨が降る前触れを感じさせる独特の匂いが鼻腔を掠めた。
肌に纏わりつく湿気と冷気は気が滅入る要因のひとつだ。

重い足を引き摺るように歩いて辿り着いた隊舎、自らの意志では絶対に寄り付かないであろう其処には背を丸めて入る訳にもいかず、背筋を正して中へ。

現世の霊波計測の結果を纏めた書類の提出、俺の役目は其れだけ…で済ませたかった。

半ば無理矢理座らされた椅子はやけに洒落ている、脚高な卓の上には真っ白で手触りの良い大判の掛け布が一枚。
並べられた茶器と食器、匙の持ち手には細かな装飾と至る所まで華々しく、育ちの悪い俺から見ても高価な物である事は一目瞭然だ。  


…落ち着かねえ。

そっと目の前に置かれた皿の上には狐色した一口大の食い物、異様な存在感を放ち俺の視界の中心にどっしりと鎮座している。
嗅覚を研ぎ澄ませば微かに甘い香りが漂う、甘ったるそうな物だと分かれば吐息が洩れそうになった。 

慣れた手付きで茶器を扱う相手に頭を下げ手をつける、茶の礼儀や作法を知らない俺は自分の動きがまごついていないか気掛かりだった。

一口齧って顔を見せた生地の中身、ぎっしりと詰まった餡の正体は林檎や柑橘系の干し果物と果皮。
甘い、予想していた範囲を遙かに超越した甘さだ。
 
然し餡に練り込まれているであろう果実酒の風味は良く、セイロン肉桂の根を乾かしたモンも入っているのか馨しい。 

嫌味の無い甘さ、無理なく喉を通る。

そして皿の脇に静かに置かれた茶碗、片言の茶葉の名前を告げられるも聞いた傍から覚える気が失せるような名前であったのは確か。
紅茶からも焼き菓子と似た香りがすると思いつつ、口に含めば香辛料独特の強い香りが口内に充満。

鼻から抜ける香りも味も独特だ、焼き菓子の名前を聞いてみるがこれまた覚える気が起きない。 
みんす…ミンスパイっつう名前だった気がしないでもない。

どうやら此の焼き菓子も紅茶も聖夜に口にする風習があるらしい、何処の地域でとは聞かずとも分かった。
併せて焼き菓子は聖夜から十二夜までに十二個食うと新年に幸運が訪れるという言い伝え。

そして此の円形の形はとある世界宗教の始祖が眠る揺りかごを表わしたものとされている、とも教えられる。 

何時役に立つ知識なのかと首を傾げたくなったが、ここまで来たら深く話し込もうと思い立つ。 



刹那


急な雨足と大きな雨音に梅雨も真っ直中なのだと改めて悟る。

季節外れ、そして乙女が信じるような聖夜の言い伝えを野郎二人で語るのは止めるべきだと俺は静かに口を噤んだ。




糸の意図やらあんたが言うと格好がついて更に苛立つ、少し癪だが腹に三発に負けてやる。 

現世の嬢ちゃんの話に思わず微笑ましいと感じた、一周年とは目出度い。

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7 :阿近
2011/05/29(日)05:19:49

才人に触発され回答。
嬢ちゃんの綴りを見ていると俺も文学的才能が欲しいと思うね、切実に。

>恋愛質問バトン 

>好きな人バトン!!
>好きな人について答えてね!! 

>▼年齢は?
今や昔の威厳も消え去り怠惰の塊みてえな駄菓子屋の店主から『女性に年齢は聞くもんじゃないっスよ!…後が恐いから。』と餓鬼の頃から言われたモンだ。
この質問に触れるべからず、危険だと身体が感知。
>▼優しい?
虚勢を張ってばかりの煩く小汚い犬を拾い、首輪を着けて温もりと居場所を与えてくれた。
優しいなんて言葉では表せない程に寛容、だが其の特別な優しさを授かる権利があるのは俺だけだ。
>▼その人の事大好き?
七夕の願いは一生叶えてやれねえな。
…好きの一言で勘弁してくれ、照れ屋では無く対象が貴女だから照れるのだと何度でも言い訳を重ねる。
>▼本当に?
嘘が吐けるほど利口じゃねえ、嘘を吐き続け隠し通す自信がある奴は其の是非を論じる前に尊敬する。
俺はあの人を守る優しい嘘すら吐ける自信がない。
些か話が逸れた、最初の恋ではないが最後の恋、其れほど大…好きだ。
何とか達成、勢いってのは時として凄まじい力を発揮させる。
>▼その人に好きな人がいたら?
あの人が他の男に恋情を寄せていても俺は簡単には食い下がらない。
ご機嫌取りにお手して芸でも披露して甘ったれた声で鳴いて擦り寄って、投げられた物が塵屑でも泥だらけになって取りに行って戻って尻尾を振る。
其れでも駄目なら潔く身を引く。
悪足掻きは不格好、そんな格好付けた建前の裏は自分が傷つきたくねえ、我ながら酷え理由。
>▼100%信用できる?
結論から言えば出来ない。
俺に負担を掛けまいと一人で重たい荷物背負って、限界まで我慢し不満を口に出さねえ傾向が僅かに見受けられる。
まぁ、今と昔は違う上に其の原因は俺だろう。
然し疑心を持たない慈悲深く仏のような奴が居るなら爪の垢でも頂戴したい、全て信用出来るのは余程の善人同士じゃねえと無理だと思うが。
度が過ぎた疑心は論外として、言葉の奥に隠された真意を読む為に極々偶に疑う心は必要だと思っている。
互いが気遣いを忘れない間柄なら何もかも明け透けにしない筈だ、本音に気付くのは何時も疑いを抱いた先。
>▼ムカつく事ってある?
嬶天下から形勢逆転が一向に出来そうにない現状、あの人の懐の深さ。
絶対に適う事が出来ない可愛らしさと云う武器、凄まじい兵器まで所有しているとは腹が立っても仕方がない。
矮小な考え方の自分にな。
>▼その人にキレた事ある?
怒声を浴びせた後に冷静になれば目に余る醜い嫉妬心をあの人に向け深く傷付けてしまった…と後悔した、一年以上前の話。
怒りの矛先がお門違いにも甚だしい。
此処で此を口にするのは自慰行為と同義であり、俺の気性が腐っている証拠。
あの人が呆れて声も出せない姿が安易に想像出来る、頼むから鼻で笑っとけ。
>▼でも許しちゃう?
物事の程度による、度し難い行動は許せねえより放っておけねえだろ。
相手は良識人、此の類の心配は無用。
>▼その人とずっと一緒にいたい?
幾ら気持ちはあっても実際は無理、だろうな。
限られた時間の中を生きているからこそ、恋や愛を美しいのだとヒトは感じ、永遠が叶わないと知り得てこそ刹那さに溺れる。
愛を知ってこんな臭え台詞まで簡単に言えるようにもなった。
悪いが、俺の身体が地に還ろうとも掴んだ心を離してやる気はねえ。
>▼飽きない?
萎む気配の無い気持ちは一体何時まで増大し続けるのか?
難解な事象の答、教えて下さいと頭でも下げて聞いてみるか。
勿論、俺の膝の上に頭を乗っけて笑っている誰かさんに。
>▼そうなんだ?
そうです、妙に威圧的な質問だな。
>▼これだけはやめてほしい?
遠慮、気遣いにも似ているが全くの別物。
>▼それをされたら?
させないように努める、其れまでだ。
綺麗な御髪をぐしゃぐしゃに撫でて頬に触れ、抱き寄せて嫌がろうが口付けて薄い唇を割って本音を暴く。
控えめで慎ましい淑女を目指している、なんてのは理由として認めねえ。
本気で嫌がったらどうする、そんな懸念は湧い…て…ねえ。
>▼最後に一言?
庭付きの邸宅で犬を飼いたいと思ったが、既にデカい犬の世話で手一杯じゃねえか。
餌は丹精込めた手製の物しか受け付けない、主人以外には尻尾を振らず愛想が悪い。
忠誠心が強い、其れだけが取り柄。

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8 :黒崎一護
2011/05/30(月)22:55:32

どれくらい寂しかったんだろう。

どれくらい辛かったんだろう。

どれだけ…泣いたんだろう。


悪い、ってお前に対して何度も謝らねえのはそれが最善だと思わないから。

それよりも傍で一緒に笑ったり泣いたり怒ったり悲しんだり、同じ気持ちを共有していたい。

…でもさ、やっぱり俺がお前の立場だったらって考える度に口から零れそうになる。

ごめん、ずっと待たせてごめん…って。

お前の事だから、俺が謝るときっと


>『大丈夫!』


なんて言うんだ。

それは言わせたくねえ、絶対に、だ。

お前は優しいから俺に嘘を吐ける、だから言わないし言わせねえ。
俺を待っていた時間、お前は大丈夫なんて気持ちで過ごせた訳がねえ。

そう確信出来るのは、俺がお前に愛されているって自信があるから。
自惚れじゃないぜ、その自信も愛もお前が感じさせてくれるんだからさ。

俺だったらお前が傍から離れたら、腕を引き千切られたどころの痛みじゃねえよ。
涙を受け止めるのもバケツじゃ足りねえ、直ぐに一杯になって溢れちまう。


ごめん、より


ありがとう。



一緒に居てくれて、俺の一番傍に居てくれてありがとう。
変わらず好きでいてくれて、愛してくれてありがとう。

好き、大好き、愛してるでもお前への気持ちは一生表せない。
だから言葉よりも手を繋いで、頭を撫でて、抱きしめ合ってお互いの気持ちと温もりを感じ取る。

言葉より確かなそれ、何度も、何度も繰り返す。

あの馬鹿じゃ好きも素直に言えねえし、やっぱり謝罪は何度も口に出来ねえから此処に。

…しっかし情けねえ、言ったそばから情けねえ!

ドキドキして言葉は浮かばねーし送信ボタンが押せねえとか…畜生。

この時期の頭痛は凄え厄介だ、でも昔からのお前のおまじないで少し楽になる……キ、キスしてくれりゃ尚更いいけどな!

おやすみも此処に添えとくけど、寝るときはお前の布団に勝手に潜り込んで寝てやっから覚悟しとけ。

>別件
鬼坊主とか言った下睫毛さん、早めに技術開発局に来て下さいだとよ。

>もうひとつ
味噌汁の具の好みは渋くないと言いてえ、色々ありがとな。

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9 :阿近
2011/06/01(水)13:25:24

仰のけに寝ながら見上げた其れは目が眩む様な曲線美、下肢から響く淫靡な音と薄らと開いた唇からは荒い吐息。

赤らんだ顔は悦楽に浸り恥じらいながらも満ち足りた表情を浮かばせ、緩々と上下に揺れる腰部の動きに合わせて与えられる強い刺激。

堪えきれない、許しを乞うように呟いた


>「……重てえ。」


覚醒したばかりの寝ぼけた意識の儘、下腹部への圧迫感に堪えきれず上体を起こして原因を確かめる。
腹の上には床に山積みにしていた筈の数冊の本、温もりの無い其れを退かした後に沸き上がる侘びしさと言ったら相当なモンだった。

散らかり放題で碌に足場もねえ、寝る空間を作り出せた自分に関心する程に。
夜這い宣言の所為で夢見が悪い…いや、寧ろいいのか。
研究室を片付けてから、右手の世話になる事だけは明白。


>ぎゃふん
正体を知った後、頭に過ぎったのは身の危険。
…怖え、あの二人に囲まれたら降参するべく俺はこう叫んで一目散に逃げるしかない。
だがホルムアルデヒドを入れた大瓶抱えて隊舎に出向く、足労かける訳にはいかねえ。
副隊長殿の臓腑を頂戴に参りました、挨拶は此に決めた。


…勝手に和えるんじゃねえよ。

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10 :阿近
2011/06/03(金)04:43:52

…なぁ、ルキア。

霖雨の所為だぞ

いいか、霖雨の所為だ


頭が痛い

頭が痛い

頭が痛え


あたまが…いてえ


あ…いてえ


逢いてえ


逢いたい




愛してる




独り寝の夜。

丸めた布団をあの人に見立て、抱き締めて囁いてみる。

寂寞感。

そう、この寂しさもきっと雨の所為。





纏めちまうが、満了への祝辞、新たな綴りを棚に並べてくれた事に感謝を。
二人には行ってらっしゃい、局長にはお帰りなさいを。

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|||1-||||リロ

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