何も考えられなくなって、貴方の全てが正しい気がして、完全に麻痺していた俺は何事も無かったかのようにいつも通り暮らした。仕事へ家を出て、帰り際に貴方と落ち合って、適当に飯を済ませたら俺の部屋で一緒に布団へ滑り込む。一緒に買い物へ出掛けたり、一緒にゲームをしたり、何の変哲も無いしあわせな日常を送った。
以前と変わらない俺の様子に貴方は油断していた。俺が全てを諦めて、自分の行いは赦されたと思っていたのだろう。ある日いつものように俺の部屋へやってきた貴方は、シルバーの指輪を外し忘れていた。
心が壊れるのは簡単だった。蓋をしたはずの悲しみが首を擡げ、目の前をどす黒く塗り潰していった。
以前とは何も変わらない。ただ、知ってしまった、というだけで。最初から、俺は貴方の恋人でもなんでもなかったのだ。