僕は君の温度に追いつくことができたのか。 君の温度ばかりが熱くて、 僕は僕のひやりとした温度を申し訳なく思っていたけれど。 冷たくて、なのに触れた君は温かいと笑うから。 少しだけ認めてもいいよ。 僕は今きっと、君の温度が上がるのを待っている。 ひょっとすると待ちぼうけることになるかもしれないね。 僕は君がそうしてくれたように、温かいとは笑えないだろう。 それでも、ひんやりとした手も気持ちが良いものだから。 その手に満たされてあげようじゃないか。 |
君が君の心の中の美術館にお気に入りの肖像画を並べ立てるから 僕は僕の肖像画をそっと外しただけ。 |
背中を見る僕の気持ちを欠片ほども考えない君は。 成る程、透明人間になるというのはこういう気分なのかもしれない。 たとえば袖を引いたとして、 見えぬ者なのだから少し何かが引っ掛かっただけなのだろうと思われる。 その袖を引いたのは僕であるのに、だ。 僕がどんな行いをしようとただすり抜けていくだけ。 君は僕のことを大層価値のあるもののように語るけれど、 語るその口で僕が無価値であることを証明する。 両側から異なる力を掛ければ装飾品などいとも簡単に割れてしまうのに? |
僕ほどの人間とはいえ、どうしたら良いか分からなくなることもある。 一体誰が悪いのか、どうする手立てもないのならば。 責められる所以はなく、また責めるのも間違っていると感じる場合 振り上げた拳の置き所に迷うのだろう。 迷った挙句にその横面を張り倒してしまうというのが常なのだけど。 ……比喩なのだよ、これは。 言葉は言葉として出した時点で嘘になってしまうものだろう。 ほんとうの心は詩には乗らない。 心を飾るものが詩だ。 それを愛情の施しと取るか虚飾と取るかはひとにより違うのだよ。 |
僕は今までの自分の行いが間違っていたとは決して思わないけれど。 何なら、今だって君の為に必要なことをしたと思っている。 君を縛りつけるのは利己でありエゴだった。 だから、君を手元に置いておくべきではないと思っていた。 けれども、僕の言葉は薄く薄く刃を創って君を貫いただろう。 それこそ共に過ごす間に何度それを突き立てたか分からない。 少し前に直接尋ねたことがあった。 また、あの時の僕らを繰り返したらどうする、と。 君はそんなこと、もう忘れてしまったと言って、 それはそれは能天気に笑っていたね。 ……あの時は君も随分と僕を恨んだろうに。 もう自分を捨ててくれと、そう言っていたのは誰だったかね。 僕は時々心配になるのだよ。 こうして進めてきた歩みを台無しにはしないだろうか。 ……これは弱音だね。僕らしくもない。 少しだけ恐ろしいと感じている。今を。 |