重たい遮光のカーテンが僕を世界から区切る。 隔絶されたこの部屋だけが絶対的に安全で、揺るがない。 揺るがないはずの境界線を揺らして 君が陽の光を連れてきた。 冬に満ちていたこの部屋の外に 春が来ていたことを知ったのは その日だった。 |
過去の僕がいくら君を悩ませても 時がたてば別人になる。 とはいえ、それが免罪符にならないことは承知している。 僕がこれだけ変わったというのに、 君ときたらまったく変わらず…… いや、君もずいぶんと変わったものだね。 自分の頭で考え動く人間になった。 変化は良いことばかりとは限らない。 それでも、君の変化を僕は喜ぼう。 |
誰の目から見ても美しい人形を手元に置いている。 当然だ。ミリの妥協も許さない。 僕が美しく誂えた僕の人形だ。 いつでも美しくあるように。 そう思っていた。 ……思っていたのだけれど。 あの美しい顔が緩んで、 炉の中で溶けだすガラス玉のように 見る影もないほどに気の抜けた顔を僕へ向けてくる。 歌声を想起させようもないとろけた飴のような声で僕を呼ぶ。 その瞬間を悪くないと。 そう感じるようになったのはいつからだろう。 2020/0113 |
夏という季節が嫌いだ。 長期の休みのせいで街はぎゃあぎゃあと喧しい声に溢れるし 休み前も浮かれた気分に学内がそわつくだろう。 鬱陶しい。 湿度の高い空気が肌へ纏わりついて不愉快だ。 汗をかくなど完璧な人間の数少ない欠点なのだよ。 品がない。 夏の暑さに狂わされる。 渇望する。 ひたりと触れる冷たい体温を。 ああ、忌々しいといったらありはしない。 |
熱が出た。 あれには #「あ〜……!!また熱出して〜……!!」 と言われたが違う。勝手に出るのだよ。 頻りに明日のライブは大丈夫かと聞いてくる彼に 「問題ないよ」と返しても #「絶対嘘や〜!」 と大騒ぎされる。喧しい。 嘘は嘘でもこれは……そうだね、君の前に二つのケーキがある。 ストロベリーとチョコレートだ。 君は薄桃色のクリームに目を奪われて、そちらが欲しいと思った。 けれど君の友人がやってきて、苺が食べたいと言ったとする。 そうしたら君は友人に差し出すだろう。 ちょうどチョコレートが食べたかった、と言って。 僕の嘘はそういう嘘だよ。 昔の彼ならこれで納得してくれたのだけれどね。 #「あか〜ん……!!影片を悲しませる嘘は禁止〜……!」 と今も煩い。 まったくもう、扱いづらくなったのだよ。 僕の言葉をそのまま受けとる人形から人間へ。 君は変わってしまった。 まぁきっと、良い変化なのだけれど。 2020/0111 |