言葉は、僕らふたりの間に冷たく横たわる谷を飛び越えるための翼だ。 肉体は朽ちても言葉は決して朽ちないのだよ、影片。 神話の時代に僕らは言葉を持って生まれた。 何故だか分かるかね。 定義さえされていなかった愛を、ひとへ伝えるためだ。 胸に満ちた感情をたったひとりに伝えるために、言葉を得た。 言葉は万能ではない。 されど言葉は力を持つ。 その力を信じ、僕は今日も君へ振おう。 |
君へ僕の言葉が届かないのならば。 薬で喉を焼いて声を潰してしまおう。 届かぬ言葉と出せぬ声とは同じことなのだから。 |
さて、影片。 この世界に存在する、〘名前〙のないものの話をするのだよ。 もし、名前のないものが存在するとして。 それは一体どんなものだろうか。 誰も知らないものだ。だから、呼ぶ者がいない。 この世にたったひとつしかないものだ。 だから、〘名前〙で区別する必要はない。 僕が君へ抱く気持ち。 〘恋心〙だなんて一側面の言葉では表せない感情。 それがきっと―― |
言葉は第三の腕だ。 愛しいひとの頬が濡れていたら、それを拭うこともできる。 時には……その腕で突き飛ばしてしまうこともあるね。 けれど、……できれば君を抱き締められる腕を持ちたい。 不安も寂しさもすべて包み込める、温かなそれを。 |
「あぁ、光がない。この胸を高鳴らせるような激しい光の瞬きが。」 #「なんや落ち込んどるん…?ほら、お師さん、ぎゅしたるよ。」 「……君へはときめかない。」 #「がーん!ちょっとショックや!」 「ちょっと……?君、こんなにも愛してやまない僕が 君にときめかないと言っているのをちょっとで済ますのかね? 君にとっての世界が崩壊したに等しい絶望感を醸し出して良いのだよ。」 #「今日ほんとにどないしたんー?」 「どうせ僕は面倒くさいよッ!」 #「そんなこと言うてへんよぉ〜。ほら、よしよし〜。」 |