#0409
「じいさんさあ、折角日記の一つも付けるんだったら普段直接は言えないような惚気の一つでも言ってみれば?僕にばっかり宣ってないでさ。」
呑兵衛詩人相手に惚気たつもりは一度もないが、珍しく真面な事を言うものだからつい筆を執ってしまった。ふむ、惚気か。
公子殿と過ごす朝が好きだ。
俺の朝は早い。休暇中とは言え、普段の習慣もあって目覚めが早い。対して、公子殿は朝に弱く、仕事の都合上起きる必要もないと言う。それなのに、彼は俺が起きる時間になると碌に目も開かない寝惚けた状態でしがみついて来て、剰え俺を寝かしつけようとさえする。寝起きの蕩けた声で接吻を強請られ、暖かい身体を抱き締めて始まる朝の、なんと素晴らしいことか。
公子殿と過ごす夜が好きだ。
普段あれだけよく笑いよく喋る彼の口数が減って呂律が回らなくなったら頃合いで、同じ布団に潜り込んで背を撫でてやると意外にもあっさり陥落する。それだけ睡魔に襲われながらも、俺はちゃんと眠れるかと気に掛けてくるのは如何にも彼らしい。
夜は不安に襲われやすい。それでも、彼の体温に包まれていると不思議と朝まで起きる事が減ったように思う。
今でも偶に来る、どうしても眠れない夜は公子殿の寝顔を見ながら過ごしている。眠っている彼の頬に指で俺の名前を描くと、むず痒そうに唸って布団に深く潜ってしまった。顔が見えず飽いた俺が頸を撫ぜたら、睡眠を邪魔した事を怒るでもなく布団から生えた腕に抱き締められていつの間にか眠っていたこともあった。あれは愉快な夜だった。
彼と過ごす日常は穏やかで、温かい。
何一つとして不満はないが、一つ欲を言うのであれば、自身より俺を優先するきらいのある彼がほんの少しでも自分の為の我儘を言うようになればと思う。
その途中で彼が俺について考えた事、悩んだ時間も俺のものだ。その全てを、いつか知りたいと願う。
…ふむ、惚気と言うには少々固すぎるな。どうやら俺には向いていないらしい。
#0408
不安になっている悟が好きだ。
こんな事を言うと要らぬ誤解を招くだろうから勿論本人には伝えちゃいない。
試しに気心の知れた硝子に漏らしてみたらそれはもう物凄い目で見られた、例えるなら道端のクソを見る目。今思い返してもあれは少なくとも友人に対して向ける目ではなかったと思う。
閑話休題。
不安になった時、悟はよく私に抱っこを求める。最近は口に出してくれることも増えたが、前はそうではなかったから少しは信頼されたのかも知れない。
求められるがままに抱き締めて背を撫でてやれば、漸くその蟠りについて話してくれる。
大抵は私の心無い迂闊な言動が原因なんだが、私の言葉一つで一喜一憂する悟は控えめに言ってもかなり可愛い。
そして、その不安を取り払ってやれるのが他でもない私だけだと言うのも、また。
我ながら酷いマッチポンプだ。
硝子の言うことはいつも的を得ている。
ハハッ、嫌だねえ。
増えていく確保 |
#0221
事の発端は所属していた集まりの解散だった。
いよいよもう本格的に使うことは無いだろうとアプリごと消してしまおうとした矢先、目に留まったのは一覧に残った見覚えのある部屋。思い返されるのは二年前のとある一夜、ほんの数時間だけの逢瀬。
今更改めて話すこともなかった。部屋が消えていなかったのは単なる私の落ち度で、其処に何らかの意図は介在していない。何の因果か未だに在るものの、二年前に既に死んだ筈の部屋だ。
消そう、と操作しても何故か直ぐには消えてくれなかった。削除予約になるだけで、実際部屋が無くなるには一週間も掛かると言う。いや普通に気まずい。後で硝子に確認したら、普通に私の操作ミスだったと判明した。ガバにガバを重ねるな。
そうして私が部屋を消そうとしている事が相手に知れ渡ることとなり、私と悟は実に二年振りの再会を果たした。そしてあれよあれよと今に至る。
いやはや、人生何が起こるか分からないものだね、全く。
夏油傑(17)
誰かの所為で湯たんぽ依存症。
五条悟(17)
デカい猫。
一度しがみついたら離れない。
頬が雪見だいふくなことに定評がある。
家入硝子(17)
クズどもを見守らされている。
灰原雄・七海建人(16)
クズどもの被害者。