夢の話

夢を見た。
悟と二人、明け方のファミレスで何方が頼んだのかもう覚えてもいない萎びたポテトを摘みながら、昇り来る朝日を眺める夢。
徹夜明けの目には酷く沁みる朝日を二人で浴びながら、眩しいねと笑い合っていた。

眩しいほどの朝日を浴びる夢は、大きな幸運に恵まれることを暗示する吉夢らしい。
夢占いなんて信じている訳じゃないが、君を抱き締めてあやしながら寝た夜にこんな夢を見るだなんて、少しばかり信じたくもなるってもんだろ？

ねえ悟、私きっと君となら何でも出来るって本当にそう思ってるよ。

優しくて、かわいい人

トーマは優しいね、と若は言う。
オレからしてみれば若の方が全くその通りだと思うんだが、そう言うと若は困ったように首を横に振る。
「私の優しさは身内に対してのみだよ。」
若の垂れた優しげな瞳が、殊更に和らぐその瞬間が堪らなく好きだ。若の言うその身内の括りの中に、お嬢だけじゃなくオレも含まれていると言うことがとてつもなく嬉しくて、そして誇らしい。

トーマは可愛いね、と若は言う。
揶揄うのではなく、本心からそう言っているのが分かるから余計に困る。若ほどではないにしろ、オレだって女性と比べれば間違えようがなくそれなりの体つきをしている訳で、何処かの探偵さんのような華奢な身体でも童顔でもない。オレの何処を指して可愛いと言っているのか、腑に落ちず尋ねた日は一つ一つ言い含めるように教え込まれたからまた聞こうとは思わない。
それでもね、若、可愛いと言うのはお嬢のような人間を指すんですよ。
「綾華は確かに可愛いけどね、それはあくまで身内に向けるものだよ。トーマを可愛いと思っているこの気持ちは、決して身内に向けるものじゃない。」
あれほど若の身内でいられることを喜んでいたのに、その括りから外れたことに喜んだのは初めてだった。

ぐるぐる、犬のように同じ思考を回し続けている。そんなことをしたって無駄に稼げるのは時間だけで、結論は最初から変わらない。そこに辿り着きたくない一心で、余計な回り道をし続けている。
滑稽だな。オマケに全くもって非効率。誰かさんが知ればきっと鼻で笑っただろう。

彼が求めていたのは、私のそれではなかった。何のことはない、たったそれだけのことだ。

それは違う訂正させろ、頼む。オマエを好きになってからオマエをずっと求めてる。

私は今日まで、きっと単に気休めにしかならない言葉で無駄な時間稼ぎをし続けていた。彼が誤魔化されてくれることを祈って。
それももう、終わりが近い。

小難しく考えるのはお前の悪い癖だぞ。
いつか言われた言葉を思い出す。彼女の言葉はいつも、恐ろしいほど正鵠を射ている。
ぐるぐる、渦のようにとぐろを巻く思考は止まらない。

私は、彼の唯一になりたかった。
俺の唯一をオマエにさせて。この先ずっとを誓うから

#一ヶ月経った話

#一狩りした話