着替えようとシャツの袖へ腕を通すとき、 左肩に残る君の証が警告する。 君を忘れるなと。 あぁ、忘れる筈などないのにね? 青く透き通る乱暴者へ唇を触れさせれば たちまちおとなしくなってくれるのだから愛らしい。 君もこれぐらい御しやすくあれば良いのだけれど。 |
国を違えて過ごしているのだから、 寂しがる気持ちもまぁ……分からなくはないのだけれど。 けれど君、普段離れ離れに暮らしている時よりも、 久しぶりに相見えた後のほうがいっそう寂しがってはいないかね。 君はもう三ヶ月分ほど腕の中へ滞在しただろう。 あれだけの温もりがあればあと半年は生きていけると思うのだけど。 写真は消しなさい。所持していると君へ害が及ぶよ。 ……正直に言えば。 あれをすれば良かった、これをすれば良かったと 頭を掠めることばかりなのだよ、僕も。 まぁ、僕は君とは違うからね。過ぎたことは嘆かず次に生かすのみだ。 |
夜明けが来るまで終わらせたくはない物語がある。 鳴り止ませたくはない音楽がある。 僕はそう、甘美な詩が紡がれる様をずっと眺めていたい。 この世は望んだものが与えられるほど優しくはなく、 願いが叶えられるほど甘くもないけれど。 君が居れば或いは。 ……或いは。 それさえも虚しい推論だ。 朝が来るまで指先を繋いで、と触れる空の冷たさは 普段よりもやけに指を裂く。 |
その風切り羽を抜いたのは誰だろうね。 君は僕が初めて見たときから飛べなかったようだけれど。 今は地に足を付けて羽根をばたつかせることすらできないだろう。 僕の傍にいることで悪化しているというのなら、 僕から離れれば君は満足に空を飛びまわれるのではないのかね。 それは明白な事実だというのに、 どうしていつまでも僕の足元に蹲って囀っているの。 君はどうして。 |
僕には僕の美学があり、愛がある。 自己の振る舞いよりも優先すべきは己の矜持だ。 僕は僕の魂を人質に掛けるような真似はしない。 さすれば最後、僕は僕であることを失ってしまうのだから。 |