昨日仲たがいをした。恐らく。 #「最近愛を感じひんよ!!」 あ、影片が怒っている。と感じとることはできたのだけれど。 ひとしきり、僕が彼のことなんて好きでないと思っている!と騒いで そうして子どものようにぐずりだした。 な、泣くんじゃない……。困る……。 〘僕が彼に好きだと言わない〙 〘つまり僕はもう彼を好きではない〙 べそをかきながら怒る彼の趣旨をまとめるとこうだ。 単純にして暴力的な論法。 言っていないだろう、そんなことは……。 そう、それこそ気持ちだけならば いくらでも尽くしてはきたつもりだ。 それは言葉にしなくとも伝わっていると、そう思うのは僕の驕りだね。 自分の落ち度を棚にあげて彼の理解をあげつらうのは良くないことだ。 これは僕にわかりやすく非がある。 まぁ、それはそれとして自分の持つきもちを否定されるのは いささか傷ついたね。 「好き」の言葉は最小の魔法だ。小僧の領分に近い。 こんな僕でも信じている魔法。 「まじない」と「のろい」は同じ言葉で出来ている。 「好き」は君を僕に縛りつける「呪い」だから、 極力使用を避けている部分が確かにあるのだよ。 ……手離す準備をしているから。 ああ、こういうことを書くとまた影片はわめきだすね、きっと。 恐ろしいね、「好き」というものは。正常な判断を鈍らせる。 僕が「好き」を与えたら、彼は判断を鈍らせてここにいたがる。 だから僕はきっと今後もろくに伝えはしないのだろうけれど…… 友人からの説教が飛んできそうだ。やめよう。 ひとまずどうするかね。 朝はろくに話もせず出てきてしまったから ……放課後のうちにはどうにかしたいのだが。 >諍いは収束した。予定調和だ。僕は完璧だからね。 |
もしも君が事故に巻きこまれ、記憶を失ったとしたら。 そのとき手を差しのべてくれた相手を好きになるのではないかと。 僕はおおよそ彼に好かれるような行為をしてこなかったから、 こんなにもつき慕ういちばんのきっかけに近い出来ごとが 再び彼の身に起こればそちらへ行くのでは、と思ってね。 恩義を感じてそれに報いようとしているうちに その相手へ恋をするかもしれない。 という話をしたところ、自分が僕のことを忘れるはずはない、 と自信満々に言っていた。 僕のことでも君は、結構ぽろぽろと頭の中から落としていくから あまり信憑性はないね。 万がいち記憶を喪失しても、僕の香りで思い出すらしい。 本人はもっともらしく、 香りと記憶は結びついて〜などとご高説たれていたが。 いや、記憶を失った人間が見知らぬ他人の香りを嗅ごうとするかね? 彼には毎朝僕のハンカチでも持たせようか。 僕を忘れることのないように。 ✶ あまりこういった類のことはしないのだが……これは話がべつだ。 影片から聞いたのだけれど、まさかチビすけが僕を見てくれたとはね。 君が好意的に見てくれているのは悪くない気分だ。 君の場所は時折覗いていたから、より嬉しく思うよ。 ああ、言葉のひとつひとつにムーサの加護を感じるようだね。 素晴らしい。 上等な詩篇を束ねた書物のようで何度でも字列を辿りたくなる。 君が……君たちが幸いであってくれと僕は願うよ。 これからも愛らしい姿を見せておくれ。 |
いつまでも騒いで喧しいのでひとまず幕を上げることにした。 というかね、 開いているから見て!などと言われては開けるより他にないのだよ。 抜けのあるページはあれが眠った後にでも 頭からゆっくりと埋めていこう。 彼の幸せがほんとうに申告通りなのだとすれば それは容易いことなのだけれど。 果たしてそれがほんとうに彼の幸せになるかどうかは やはりこちらから見るとそうでないように思える。 彼自身が幸せだと感じることよりも 第三者から、世界から見て間違いなく幸せだと言える そんなものを誂えてあげたいと思うのは これは、僕のエゴなのだろうか。 |
#「お師さぁ〜ん…あれ〜…日記どういう意味なん……?」 「……で、……だから、……つまり〜〜ということだよ。」 #「ほんならこれは〜?」 「……と書いてあるだろう。」 #「どゆう意味……?」 「もうすこし世の人々にも理解できる内容にしようとだね。」 #「いやあいかわらず回りくどいで!いっこも伝わらん〜……。」 「……絵画を鑑賞しそれを良いと思っても、 実際に作者の思想を理解することは不可能だ。 だが、それでいい。芸術とはね、語り手と聞き手の対話でもある。 対話の中ですれ違いが発生することも読み取られない何かがあることも 全ては織り込み済みなのだよ。」 #「さては変える気あらへんな、このおひと。」 2020/0121 |
日記というプライベートなものでも、 公開している以上はひとの目につくからね。 僕は、僕らは誰にも媚びるつもりはないけれど ……多少の迎合は必要だ。 だからといって俗っぽい内容は僕に相応しくないのだよ。 『大変だわ宗くん!今でもじゅうぶん俗っぽい内容だもの!』 なんということだ……嘆かわしい。 いや……嘘だろう……マドモアゼル? 『だって、アイドルとして見せられる姿じゃないわ!』 そこまで言うかね……!? 2020/0121 |