ふたりでの仕事を終えて、再び発つ日の夕刻。 見送ると言って聞かない影片を仕方なく連れて空港へ来たときのこと。 #「お師さん次いつ戻ってくるん〜?なぁいつ?いつ?」 「こちらでの仕事が入れば。」 #「なくても!!」 「僕は忙しいのだよ。」 #「早くお師さんに会いたい〜。会いたいよう。会いたい……。」 「今会っているだろうに。」 #「わからん……夢かもしれん……。」 「へぇ、本物の僕を前にして随分と寝ぼけたことを言うのだねぇ。」 #「夢やから足りん……早く会わんと死んでまう〜……。」 「今の僕は夢だそうだからもう帰ることにするよ。 ほら、さっさと目を覚ましたまえ。影片。」 #「やや〜〜!まだいっしょにいる〜〜! #ヘリも飛行機もお迎えにこないで~!」 「ノン!多くのひとの予定が狂ってしまうだろう! 反省するまでそこを動くな!」 #「反省した!やっぱりおれも行く〜〜!」 |
甘やかな恋は微睡みの如く僕を夢へと誘う。 夢の中に君の輪郭を見た。 僕はただ君を掴もうとするが到底指先に触れることはなく、 君もまた僕へ手を伸ばすがそれは触れることがない。 何故すり抜けてしまうのか。 それは、僕と君がおなじものであったから。 君の恋は僕の愛であり、僕の恋は君の愛だ。 そう理解したとき夢から目覚めた。 僕の隣には眠る君がいて、触れることができる。 僕と君は現実では別の存在だった。 それでもきっと、君は僕の一部だ。 |
装飾品のデザインというのは矢張り衣装とは勝手が異なるもので なかなかに僕の頭を悩ませてくれる。 ましてふたりの嗜好を纏めようと言うのだから、尚更のこと。 まぁその程度のこと、僕らは何度もしてきたもの。 過去を辿るような作業だ。 それすらも愛しい。 糸の代わりに君を繋ぎ止めよう。永遠の誓いで。 ねぇ、僕らは幸せになれるだろうか。 |
ひとり暮らし用の住居を探す影片が 唸るような声を上げてテーブルへと顔を伏せる。 #「ひとり暮らしの何が怖いってなぁ〜……おばけ……。」 あれはゾンビだの何だのと奇妙なものを好いているわりに、 幽霊の類いはとことん苦手らしい。 「塩でも盛っておけばいいのでは。」 #「お塩盛ったら結界なっておばけ閉じ込めるって説もあるから #迂闊に盛れへんのん!」 「へぇ……良い幽霊と閉じこもれるといいね。」 #「出なきゃえぇんやってー!!!!!!」 「大体僕、家の中では一度も幽霊に会ったことはないよ。」 #「おれもそうやけど!!!!!!!!!!!!!!!!!!????」 「いや、だからその、幽霊に会う確率は低いのでは?」 #「わからんやん!!!!!!!!!!!! #ひとりでおるときになんかへんなことあったらひえ~ってなるぅ。」 「向こうも人間なのだから 何の縁も恨みもない人間を殺しはしないだろう。」 #「辛いことがあって #世の中を恨みながら死んでったひとやったらわからんやん~!」 「それほど深い、世への恨みならば別のものへぶつけろ。」 #「芸術に!!!!!!」 「カカカ…♪そうだよ、僕がそう話してやるから出たら呼びたまえ。」 #「つよぉい……けどなぁお師さん、そういう話やあらへんのん…… #出てほしくない〜……。」 |
入浴の時間が好きだ。 ひとりきりになれる空間と静寂だけが僕の心を満たしてくれるのだよ。 灯りを消して窓の外から入ってくる微かな光以外の情報を遮断すれば 僕は僕の世界へ没入することができる。 #「お師さーん、お師さぁーん、まだぁ?まだ終わらんの?」 ……喧しいね。 唯一ひとりになれる時間ですら奪おうというのか。 そうでなくとも僕の時間の8割は彼と共にあるというのに。 ようやく手に入れた静寂を裂くように浴室の外から歌が聞こえる。 調子外れの歌だ。 まったく……上がったら調律してやらなければならないね。 #「あれ、電気……うわっっ足長っっえっち……!」 「勝手に開けるなっ!僕、僕はえっ……〜〜ではないのだよ!」 唐突に点いた灯りに目が眩んで反応が遅れた。 バスタブの縁に頭を預けて湯の中を揺蕩っていたものだから、 浴槽の中に踵を収めておけずに反対の縁へ上げておいたのだったね。 それを見ての影片の叫びだ。それにしても五月蝿い。 #「いや、ちゃう、はよ上がって!お師さんおらん時間いやや〜!」 「……君にもひとりの時間は必要だと思うのだけど。」 #「そんなもん要らん。」 これからの人生で、 果たして僕が僕だけの為に過ごせる時間はあるのだろうかね。 共にいない間も、君のことを想わされるのだから。 僕の時間は全て君に奪われてしまった。 |