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┗いつかの回顧録。(322-325/325)
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325 :
英
02/18-23:40
遠い先で良い。
その愛し方で良いよ、って言ってくれる人に出会えることを、夢見ている。
どうしようもなく独り善がりな愛を、受け取ってくれる人に出会える夢。
何度も夢見ては、壊れてしまうけれど。
騙されて、傷付いて、置いていかれて、捨てられてしまう最後はもう嫌なんだ。
ただ君を愛したい。
間違いだらけの欠陥品が治るのと、心が死ぬのはどっちが早いだろうな。
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324 :
英
01/30-22:47
記念日になりきれなかったあの日。
初めて出会った日を、お前はまだ覚えているだろうか。付き合いたてのティーンエイジャーみたいに一月ごとに祝っていた、あの日を。
何かよく見かける数字だと思って、のちのち知ったんだが、あの日はお前と世界にとって、大きな災厄の日だったんだな。今もまだ生々しい爪痕の残るあの日を、けれど俺にとってもお前にとっても幸せな日として、迎えること。この世界は本当にとても残酷だ。
俺たちが幸せだと笑いあってケーキを食べる日、その日に過去を辛く嘆く人がいる。恐ろしさに足がすくむ人がいる。きっと、俺たちにとって悲しい思い出のあの日は誰かにとって幸福な日であることも、あるんだろう。
命の短い人の子は、子供になって、孫になって、その子供になってと繰り返すたびに、災厄の記憶を忘れていく。薄らいでいくその日の爪の深さを、けれど俺も菊も、決して忘れることなんてできないのに。あの日に亡くした人を、今もまだ鮮明に覚えているのに。人の子は物語のように遠くの出来事としてしか認識できなくなっていく。過去の出来事が、分かりやすく脚色されて、彼の大きな側面だけがピックアップされて、その心の内の柔らかいところは都合よく作りかえられていく。けれど、それでもきっと名前を覚えていてもらえる人は幸せだ。
俺たちを肉付ける人は本当は名もない民なんだ。彼らの名前はもうどこにも記録されない。ただ俺たちの心の中にだけずっとある。彼らがいたことを忘れないことが、俺たちが俺たちである証明だから。
何も忘れたくない。全部覚えていたい。
どんなに記憶を作り変えられ、塗り替えられていっても、それならせめて忘れてしまったことだけでも、覚えていたい。足りない心の穴を吹く風を抱いて眠りたい。
あの日を、ずっと覚えていたいんだ。
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323 :
英
12/15-15:15
朝が来るのが怖い
夜の闇に紛れて、空気を揺らさないように息をして、そっと凌ぐようにやり過ごす人生に、朝の光を与えられるのが、怖い
光の当たった俺はちゃんと人の形をしているだろうか
恐ろしいほどに肥大した虚栄心と、自尊心と、猜疑心で、醜い化け物みたいになっていないだろうか
人の形を保てないなら、せめて美しい毛並みの虎がいい
そうして今日も、他者からの視線に怯えて毛布をかぶるのだ
夜が、明けない夜がずっと続けばいいのに
けれどきっと、あの人は日のあたる場所にしかいない
朝が始まる、美しい場所にあの人はいる
目も眩むような朝日を背負って、薄闇と混ざってグラデーションをえがく空を霞ませて、夜露を全部集めたような髪を揺らして、甘いミルク色の肌を染めて、柔らかな眦を薄桃色に染めて、俺を見つけて笑うだろう
夜が明けた世界には洪水のようにたくさんの色が溢れていて、そのどれもが彼を形容するための言葉になる
世界に溢れる美しいものは全部、彼のためにあるんだ
だから俺は今日も、裸足で世界に下りる
あの人に会いたくて、寒さと、怖さと、怯えを飲み込んで、歩いていく
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322 :
英
07/10-09:22
愛は祈りに似ている。
好きな人のことを思って、幸せでいて欲しいと思って、けれど自分にできることは驚くほど少なくて。良かれと思ってやったことは押し付けの独りよがりになったりする。恩着せがましい相手の重荷になったりする。そんなつもりでなくても、優しいあの人は、してもらった何かを返さなければと思うのだろう。
そして、そんな必要ないよと言いながら、聖人のような理想を浮かべながら、浅ましく報われたがる自分がいることに気付くんだ。
けれどそれを恐れて行動しないままいたら、きっとこの距離は永遠に埋まらないんだろう。すれ違って、繋いでいたはずの手は遠くへ行ってしまう。少しずつ溜まった疲弊は、ある日きっとシャボン玉のように弾けて、床に少しの粘つく液を残して、そうして、おしまい。
だから、もう、ひたすら愛を紡いでいたい。
祈るように。
柔く膨らんでしぼまないように、外の皮をしっかりと張れるように、何度も何度も捏ねる。自分の持ってる重さを全部かけて、祈る。
いつか、自分が生きて皿を洗っていることが、愛になったらいいと思いながら、今日も息をしている。
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