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┗さよならのワルツ(133-137/141)
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137 :
Arthur
01/26-00:49
久しぶりに髭とゆっくり過ごしていた。
楽しい、と言う感覚は特にない。ただただ幼い頃からの延長線上を淡々と過ごしていただけだ。それが酷く優しく感じる時がある。決して常々そう思っている訳ではなく。
俺の家にふらりと現れたあいつに「何を飲む?」と聞いた時に返って来る言葉が、飲み物の種類ではなく茶葉の種類だった時だとか、そう言う瞬間が当たり前に流れていくのが日常と言うんだろう。
勿論俺の家には紅茶以外の飲み物だってある。来客用にコーヒーだってあるし、たまにはコーディアルを割って飲みたい時もあるからサイダーだってある。あいつが望めば紅茶以外の飲み物が選択肢に存在していたのに。でも俺が茶葉をいくつも溜め込んでいるのを知っているし、言えば出てくるのも知っているあいつは、棚の中を見る事もなく迷わずに紅茶の茶葉の中から選ぶ。嫌味でも何でもなく、ただ当たり前かのように。それでも決してお前の淹れる紅茶が好きだ、とは言わない。そう言うところは、嫌いじゃなかった。
今から客間を整えるのも面倒だと言えばソファーで寝る、と毛布だけを引っ張っていった髭の足はソファーからはみ出していた。仕方なくテディベアをベッドから椅子へ移して一緒に寝転がった狭いシーツの上で色気も何もなく瞼が落ちるまでぽつりぽつりと零す言葉はキャッチボールどころかドッヂボールで。
目が覚めた時に誰かの温もりがあるのは何年ぶりだろうな、と迎えた朝は相変わらず冷えた冬の気温だったけれど。まだ眠っていたいとぐずった腕を引き寄せて、もう朝だよ坊ちゃん、と背を撫でる手のひらは昔から何も変わっちゃいなかった。
あぁ、それでも。もしかしたらこう言う未来もあったのかもしれないな、と。思えるくらいには、俺の脳みそも冬眠しかかっていた。残念なくらいに。
船を使わずとも電車を使えば渡ってしまえる海の距離はこんなに近くなったのに。見送るためにステアリングを握る右手が、裸足で丘を駆け上がったあの頃には戻れないと叫んでいた。
なぁ、フランシス。決して恋にならないお前と、ぐるりと廻る秒針を眺めるのは嫌いじゃないんだ。知っているだろう?
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136 :
Arthur
01/08-21:10
Happy New Year.と言うにはもう遅いかもしれないが。まぁ良いだろう。
何だかんだで今年もガルとぐだぐだしながら迎えてしまった新年だったが、年末は本当に暫く忙しくてガルに泣き付いてメンタル介護をして貰っていた。おかげさまで調子に乗ったガルは凄く嬉しそうに笑っている。
首輪だけ着けとってくれたら多少遠いとこへ散歩しても構わへんよ、と笑うあいつの側から離れられるようになるのはいつになるんだろうな。何だかんだで戻ってくるのが可愛い、とふざけた事を言われながらも、お前が甘やかすから仕方ないだろうと思ってしまう俺が多分末期なんだな。
……本当に、疲れた出来事があって。ここ数年で一番疲弊したんじゃないかと思う。何もかも放り投げて眠ってしまいたかったけど、そうも行かなくて。そんな時に限ってあいつは俺を抱きしめて、無理はするなと甘く囁いてくる。決して投げ出して良いとも、大丈夫だと無責任な言葉も言わない。その代わりにあいつは俺に消えない傷をくれて、黄昏の下で淡く笑った。そう言うところが、嫌いになれない理由なんだろう。
馬鹿らしいな、と。遠い誰かを評するようでいて目の前を諦めた俺の心臓が、今日もゆっくり脈を打つ。
誰がどう見たってあいつは狡い男でしかなくて、本人も間男みたいなもんやからと笑うけれど。
決して一番にはしてくれないくせに、どうしようもなくお前の左耳だけは俺のものだった。
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135 :
Arthur
07/23-13:21
当たり前の時間を当たり前に共有出来る幸せ、と言うのは実は有難いもんなんだな、と思った確保。気が向けば追記する。
カリエド「久し振りやのに何かこう、感動の再会みたいなんないん?」
俺「会議で会ってるだろ」
カリエド「あんなん一瞬やろ!お茶飲んだだけや!!」
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134 :
Arthur
07/04-05:12
何でもない日。
ただ俺の具合が悪くてただただ騒がしいだけの、何でもない日だ。
そう言い聞かせて来て、どれだけの時間が過ぎたんだろう。
愛している、そう伝えるだけで良いんだと髭やマシューは笑うが、そう簡単にいくもんじゃねぇんだよ。
もう意地のひとつだな、と思わなくもないが。今年も招待状の文字を指先で辿りながら、月明かりの下でシーツの海に沈んでいく。
あぁ、それでも。……それでもこの喉は赤いインクを零す事は少なくなってしまったし、真夜中にナイトウェアのままハーブティーを淹れる余裕まで出来てしまった。
それを懺悔する身体の軽さはない。己のテリトリーを出たらどうなるかも分からない。妖精さんの囁きが聞こえる範囲だからだ、なんて。
言い訳にしかならないんだろう。
それでもその先に在るものを手探りで手繰り寄せられる程、正しくはいられなかった。
今日もきっと、小さなあの子の夢を見る。
淡く笑って抱き上げて、ひとつの家の扉をくぐる夢。俺が知ってしまった暖かい欠片を巡るだけの、パウダーシュガーをふりかけた刹那の記憶。
あぁ、もう少しだけ。爪先がシーツを泳ぐ事を許していてくれないか。
いつか、きっと。
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133 :
Arthur
05/27-02:06
「お前はね、誰よりも我慢強い。それから、誰よりもさみしがり屋」
難儀な性格だね、と淡く笑ったあいつの横顔は、確かに誰かに似ていた。
このご時世、緊張感が張り詰める事はあっても枕の下に銃を忍ばせて眠る事はなくなったし、身を縮こまらせて震える手で矢を番えていた頃より余程幸せになったと、それだけは胸を張って言えるけど。
それはきっと最低ラインの話であって、大多数の普通とは違う事くらい、理解している。
キリキリと胃を痛めながら走らせるペンも万年筆からボールペンに変わった今、あの頃のようなさみしさをさみしさとも認識していなかった胸の奥の痛みを抱える事はなくなった。
それでも優しさを覚えた心臓は相変わらず小指の先で掬いあげたティーハニーの甘さを求めるし、真夜中のミルクティーを愛そうとする。
月明かりでは物足りないくせに、蛍光灯の下では眩しくて眠れないんだ。我儘になったな、と思う。
欲しがる事が多くなった。あれも、これも、と。そう、自分の周りを欲しがるのではなく、自分の身の内の空虚のひとつひとつを、埋めるしあわせを覚えてしまったから。
あれでもないこれでもないと嘆き続けて、俺は何をしたいんだろう。
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