結局のところ、インプリンティングだ。刻印づけ。 彼の脳へ一番最初に鮮烈に焼きついたものが僕だった というだけの話だろう。 ああ、わかっている。僕は恋をされている。 それを否定はしないよ、影片。 けれど、きっかけはそこだ。 ほんとうに小さなひとつの恩を、後生大事に抱えこんで 一緒に沈みゆくような真似をする必要はないのにね。 でも鴉はくだらない、ゴミのようなものでも、 きらきら輝いているものが好きだから。 彼にとっては、つまりそういうものなのだろう。 僕としては、 僕が掬いあげた君が大空へ羽ばたいていくのを見られる そんな日がくればいいと思っているのだけれど。 2020/0108 |
この感情は恋情ではない。 が、彼から向けられる感情は恋情だ。 そしてどうやら健全なる男子高校生らしい彼は、 それなりに持てあます思いもあるらしい。 触れるだけで幸せだが、いつかは……と。 いくら幸せだと言ってもね。 それで欲の発散ができるわけでもなし。 僕もそれを受け入れることはやぶさかではないのだけれど…… ことをするのに、好きではないというのはおかしいのではないかね? 僕は受け入れるべきではないのでは? 教えてくれマドモアゼル……。 『あらやだ宗くん、そんなことレディに聞いたらいけないわ』 そうは言ってもだね。 放っておいたら持てあました情欲を持ってどこかへ行くかもしれない。 それはそれで問題だろう。スキャンダルだよ。 けれど 僕らがそんな、あ、愛……コホン、愛のある行為に及ぶなんて……。 『宗くんはすぐ頭でっかちにものを考えるんだから。 結局大好きなのにね』 ……それに僕はその分野に疎いからどれだけ調べても足りないだろう。 おとなしく手ほどきを受けるのか……僕が…………、……すこし怖い。 『いろいろ言っていたけど、宗くんははじめてで怖いってことなのよ。 ごめんなさいね……♪』 2020/0108 |
先日、やむにやまれぬ事情で外出をした。 結局遅くまでかかってしまって 仕方なく外で食事を取ることにしたのだけれどね。 「洋食」と「和食」のどちらがいいか聞いてきたものだから 正直に「洋食」と答えたのだよ、僕は。 ところが目星をつけた店が思いのほか、ひとのおおいところで。 軽く辟易しながらその列に並んだが、 五分も経たないうちにあれが店を変えようと言いだした。 #「あんなぁ……向こうのお店すぐ入れるんやけど…… #ひとがぎょうさんおるところずっといると疲れてまうやろ……? #せやから向こう入らへん?」 あんな食べるものがなさそうなところへ入りたくないのだよ。 #「んあっ。たしかにちゃんとしたご飯屋さんやないけど〜…… #……あ、クロワッサンあるんやって!ほんなら入れるやろ? #こんなごみごみしたところより早く食べて早く帰ろ〜なぁ……♪」 と、結局僕が譲らされた。 あれは僕の言うこと聞くようでまるで聞かない。 2020/0107 |
今、僕のことを見ているのは君だけだ。 昼夜の区別もない。 自分がどこへいるのかも分からない。 湖のように凪いで。 夜のように静かだ。 とても居心地が良い。 ずっとこうしていられれば良いのに。 けれども僕のからだは生きるための最低限の機能を有していて ひとりではそれを維持できない。 君が僕の元を離れれば僕は助けを呼ぶこともない。 君が朝、わざわざ僕へ挨拶をおくって それから出ていく背中を見ながら いつ帰ってこなくなるのだろうと夢想する。 それは恐ろしいことではない。 むしろ、なぜ帰ってくるのかが理解できない。 理解できないことのほうがおそろしい。 君も早くどこへでも行けば良いのと。 |
『どうせいちから仕立て直すんだったら』 『みかちゃんに合わせてあげればいいのにね』 バカを言わないでくれ、マドモアゼル。 あれの仕立てたものが僕に合うとでも? 『なら作ってあげたら?』 『みかちゃんもそれを少し期待してたみたいよ?』 それこそ絶対にしないね。 ひとつでも多く、あれの作り出す世界をひとの目に。 だからこそ、デザイン画を前に悩んでいるあれに らしからぬ言葉をかけたのだよ。 自分が作るものより僕のもののほうがと言う人形に 「でも僕は君の作り上げたもののほうが見たいね?」 2020/0107 |