宝物庫の中へ大切に大切にしまっていた僕の宝物。 どこぞの誰かは知らないが、 それを引っ張り出してきて衆人環視の中に晒すとはね!! 世界がッ!気付いてしまった!見つかってしまった! ああなんて嘆かわしいのだろう、 真にその価値を理解できるのはこの僕だけだというのに? などと取り乱しはしたが、概ね良いクリスマスパーティだったね。 騒々しいばかりの街は好きではないけれど、君と過ごす夜は好ましい。 あぁ、毛布から肩が出ているよ。 暗闇でも光を取り込んで薄ぼんやりと光を放つ雪のような肌。 とはいえ君は雪でできているのではないのだし、風邪を引きかねない。 毛布を引き上げては起きてしまうかもしれないと、 そっとブランケットを身体へ掛ける。 はしゃぎ疲れて眠る君の髪に指を通す瞬間が、ただただ愛おしい。 ねぇ、僕らが正式にパートナーとして結ばれて一年が経つのだよ。 なんて、眠っている君に言っても聞こえやしないだろうね。 毛布にくるまれて生まれる日を待つ君。 早く生まれておいで。僕の元に。 |
着信音のつんざくような五月蠅さが耳に刺さる深夜1時46分。 電話口の不協和音。君はほんとうにおしゃべりが下手だね。 #「お師さんエジプトなんか行かんでぇ!!!」 「は?」 僕はね、一昨日から作業をし続けていて 君の妄言に付き合っている暇はないのだよ。 #「お師さんがエジプト行っちゃう…。」 「わざわざかけ直してこなくて良い。行く予定はない。」 #「あんな、あんな、ドラマティカのエジプト公演…。 #行ったら何か月も帰ってこぉへんって…。」 「……公演の予定もないよ。 第一、今だって数か月帰らないのは同じだろう。」 #「すぐ会えん…。」 「今もそうだろう。」 #「野盗に…。」 「いつの時代の話をしているのかね……。 夢は夢だ。それ以上でも以下でもない。 なんの夢を見たとて君にも僕にも影響は出るものではないよ。」 #「寂しい…。」 「結局のところそれだね。君、寂しがりなのだから。 まぁ、月末にはそちらへ帰るからそれまで待っていたまえよ。」 |
傍に居られる最後の冬だから、 できる限りのことをあの子にしてあげようと思う。 願うことをすべて叶え、望むものをすべて与えよう。 幾年が経っても思い返せるような。 一日一日をそんなものに作り上げよう。 アドベントカレンダーの封を開けるのではなく、 その中に美しいものを詰めて封をしよう。 いずれ君がひとりで開けて、 僕を思い出してくれるように。 |
あぁいい夜だ! 美しい月に最高のムード、 命を捨てるにぴったりだと思わないかね? こんな夜は客人もよくよく訪れる。 今宵はどうもてなそうか。 あぁ、そうだね、マドモアゼル。 森で困ったふりをして、 助けられたお礼にと館へ招くのもいい。 それならば影片が適役だろう…… 僕?僕はそんなふうに こそこそと罠を張るような真似はしないよ。 そうと決まれば……影片! ……君、まだ真っ当に喋れないのかね。 この一年間なにをしていたのか。 チッチッチッ!役立たずの小間使いなど 使い道がなければ捨ててしまうよ。 うるさい!赤子のように泣くな! ああもう包帯が解けているのだよ。 これは自分で巻いたのかね。 はぁ……僕の役に立ちたいだの言うのなら もう少し頑張りたまえ。 | さぁ、これで整え方は分かっただろう。 将来的に君がひとりでも、 この館で生きていけるように ひとつずつ覚えていけば良い。 なっ!ななな……どうしていきなり 包帯をぐしゃぐしゃにするのだね……!? あぁせっかく綺麗に整えられたというのに。 こんなにも永く共にいても 君の考えていることは 未ださっぱり分からないね。 無窮の刻を過ごそうとも 君のことが理解できる気がしないのだよ…… ……何をへらへらと笑っているのかね。 まったく……興が削がれた。 迷いびと探しはもう良いよ。 今宵は君と過ごすとしようか。 手を取って、影片。 歌い踊り夜を明かそう。 幾つも幾つもの夜を。 |
幸いにも僕は恵まれて生まれ育ってきたほうだとは思う。 当然今日は祝福を受ける日だ。 幼さ特有の傲慢さだね。そう思ったときもあった。 家族の皆から頭を撫でられる心地よさ。 抱き締められる腕の温もりは今でも僕の記憶にある。 近頃はそうされたものではないが。 言葉で、笑顔で祝福をくれる。 家族に限らず、親しき者たちや、僕を好いてくれている者たちすべてが。 そう、そうして受ける祝福は等しく嬉しい。 ……とは、思うのだけど。 あぁ、今から誰にも打ち明けることのない話をする。 僕を愛してくれる世界に相反することを。 この世界のすべてにそっぽを向かれてしまうようなことを。 僕はね、君からの祝福が何よりも嬉しいよ、影片。 君が僕へ掛けてくれる言葉で僕は生命を抱く、 君が僕へ触れてくれることで僕の輪郭は光を持つ。 影片、なんだか今、とても君に会いたい。 |