忙しさに心が失われることはない。 ましてや、ヒトとして心を得た君の輝かしい心が なくなることはないだろう。 君の心が存在していることを僕は知っている。 空の向こうと此方とに離れているとはいえ、 精力的に活動する姿は見えているし、 その名も聞こえてくる。 そう、資本となる身体の様子は気に掛かるけれども 全体を見ればとても順調に回っていることだろう。 個としての活動も、ユニットとしての活動も 問題なく行うことができている。 この状況に感謝すべきなのだろうね。 ……まぁ、もう七十年もすれば 嫌でもプライベートの時間のみを持つことになるのだし。 もっとも、僕は生涯現役を貫く天性の芸術家だ。 幾つになろうとも引退の文字は迫らないのだよ。 そうなれば立場逆転というものだ。 精魂込めて励みたまえ。 |
きっと忘れられない夜になる。 昨日、「そうか、もうクリスマスなのか……」と呟いた僕に、 #「0時になった瞬間メリークリスマスって囁いたん忘れたん〜?」 なんてからかいをしてきた君への意趣返し。 0時に君へ伝える誕生日おめでとうの言葉。 なのに君と来たら #「んああ〜?」 だなんて気の抜けた返事をして。 誕生日なのだよ。君の。 数時間前に、 明日はパーティがあるのだからほんとうは早く寝るべきなのだけど…… と言ったのを忘れたのかね。 忘れたようだね。 まったく……僕だって君を祝いに行きたいから早く眠りたかったのに 君がどうしてもとせがむからこうして一緒に過ごしたというのにね。 まぁ良い。君のそういう部分も含めて共に過ごして来たのだから。 何度ふたりで迎えても、矢張り今日は特別な日だ。 おめでとう、影片。 僕の愛する子。 君の送る一年が光に満ち溢れた路でありますように。 |
あぁ、僕としたことが……! 寒さにかまけてこんなにも大きなミスをするとはね……! 一目の乱れもない肌が赤くなってしまった。 #「どないしたん~」 「低温やけど……」 #「低温やけど」 #「お師さんが関西弁つこてる!」 「なに、何だね、君何を言っているのだね」 #「んああ~?低温やけど~低温やねん」 「君はほんとうに何を言っているの」 #「お師さんが言うたくせに……」 |
鉄製のドアノッカーが重たい扉を叩く。 お待ちかねのお客様だね。 さぁ!丁重に出迎えようじゃないか! ようこそ、我が館へ。 おや、随分と冷えてしまったようだね。 迷いの森に惑わされたのだろう。 一体どれだけの時間をあの森で? あぁ……あぁ、 それは不安だっただろう、 恐ろしかっただろう。 もう何も心配は要らないのだよ。 ――影片!暖炉の火を強くして。 どうぞ、 今温かいものも用意しよう。 ……影片?そう人様の顔を覗くものではないよ。 『Coucou!』……?君、君ね、 君のそのなりでそう話し掛けては…… ほら、御客人が戸惑っているじゃないか。 失礼、彼は少し……ほんのすこぉし 頭のパーツが欠けていてね。 怖がらなくとも危害を加えたりはしないから。 彼の非礼をこのもてなしで償わせておくれ。 どうか……。 | 影片!!先ほどのあれは何かね! 折角の客人を追い出すような真似をして……! こら、意味のなっていない言葉を発するな。 君の誤魔化しは僕には通じないのだよっ! その立派な身体で幼児語を話すんじゃない。 不気味だ。 ノンッ!べらべらと調子外れの音で 話し掛け続けるのも駄目っ! ……まぁ、ね。もうここには僕らしか居ないから好きに話しても良いけれど。 ……矢張り君を直すときに 唇まで縫ってしまえば良かったね。 好きだ大好きだとばかり繰り返すのだもの。 まるで壊れたオルゴールだ。 もう少し美しい詩を紡げないものかね……。 今度頭の中を詰めなおすときには お気に入りの詩集を入れようか。 そうすれば 少しは好ましい詩を紡いでくれるだろう。 けれども情熱を宿したその瞳は悪くないね。 ずっと見つめていたくなるのだよ。 おいで、影片。 その目をよく見せて。この夜が終わるまで。 |
近頃は君も少しは成長して、 自分が自分がと言うばかりでなくなったと思ったら……。 ふたりきりになった途端、 帰るな一緒に居ろと泣くのだから困った子だね。 今日は僕が生まれた日。 僕が、僕自身を手に入れた日とも言えるね。 それをそっくりそのまま君へあげようと言うのだから 有難く受け取るが良いのだよ。 もちろん、僕は君のものである前にひとりの人間だ。 君にだけすべてをあげられる訳ではない。 だがね、僕の意志で開け渡せるものの話をしている。 アイドルの斎宮宗ではなく、 ただの斎宮宗の話をね。 僕を、この僕を得られるのは君だけだよ、影片。 |