赤司征十郎、 試合中、私情を挟みそうになった。 チームの、自分の勝利以上にお前へ勝利を捧げたいと思ってしまった。お前の笑顔が見られたら、お前が楽しくバスケをする事が出来たら、それが何よりなのかも知れない、…――と。 馬鹿らしい。 自分でも考えられない、何かに取り憑かれていたか。恋情にかまけている場合じゃない。価値有る物は只一つ、勝利のみ。全ての勝負に勝つ事こそ正義。それ以外に意味等無い、下らない! 気の迷い、春の夢。 芽生えかけていた何かも、雨と一緒に全て流されていく。 何かを手に入れるには、 何かを捨てる覚悟が必要らしい。 矢張り僕には独りがお似合いだな。 〆 - 5 - |
黒子テツヤ、 バスケが好きだ。 バスケを好きでいたかった。 嫌いに、なりたくはなかった。 楽しむ事が全て、其処に勝敗は関係無い…――とまでは言いません。好きだからこそ強くなりたい、でも強いのが正しい訳じゃない。 火神君。キミには本当に感謝しています。 キミのお陰で、そして先輩達のお陰でもう一度バスケが好きになれたんです。キミ達となら、天辺からの景色も悪くないと思えたんです。キミの拳は大きくて、温かくて優しくて。キミの手とボクの手、抱えきれない程の思い出を作っていけたらと願って止みません。…こんな事を言ったら、きっとキミは笑うんでしょうね。その屈託の無い純粋な眼差しで。だけどきっと、少しだけ照れ臭そうに。 聴こえますか、皆さん。 今度は『幻の6番目』じゃない。正々堂々と、誠凛高校の11番としてコートに立ちます。 そして、何時か。 …何時か、また一緒にバスケをしましょう。 バスケが好きなんです。 皆さんとの思い出を作ってくれた、バスケが。 〆 - 6 - |
桃井さつき、 とーっても眠いの。此処暫くは俄然やる気になっちゃった大ちゃんに合わせて部活も連日ハードだったんだけど、ぽっかり穴が空いたオフはひたすら眠くて。 データ整理だとか書類提出だとか、やらなきゃいけない事は有るのに。今夜はテツヤ…げふん、徹夜でもしなきゃきっとダメだろうなァ。あーん動け、私!未だベッドから出られないという! ピンクの布団、ピンクの枕。 カーテンから溢れる淡い日光――は雨の所為で無いけど。静かで暖かい空間が余計に眠気を誘うの。 そうだ、この前メンズの雑誌を買ったんだよ。きーちゃんが表紙のやつ。モデル“黄瀬涼太”のファンの子はあの華やかな外見が好きなんだろうなあ。学校に居る女の子達は彼の明るい性格も含めて好きになる。 でもねー、きーちゃんはそんな薄っぺらい人間じゃないんだよ。 自分の存在意義について考えてみたり、地上で溺れそうになったり、繊細なヒト。でも、強いヒト。ねえ、知らないでしょ?だァって、これは私と5人だけが知ってる顔だもん。わんわんしてるだけじゃないんだよ、あの太陽みたいな明るい笑顔の下にちゃんとした根っこをはってる。 それで、ね。こんな私の手紙も読んでくれてるんだ。…ふふ、そう、君だよ。名前付けてハッキリきーちゃんに御礼言うのもアリかなって思ったけど、女の子達のファンレターに間違われちゃったら大変!わ、私にはテツ君が…! だからこうして、宛先不明の手紙の中にこっそり君への手紙も忍び込ませてみました。 ありがとう、きーちゃん。 〆 - 7 - |
赤司征十郎、 例えば、「ずっと傍に居る」だなんて不確かな未来。 例えば、「お前だけを見てる」だなんて不鮮明な宣言。 どんなに甘く、どんなに熱っぽく囁かれた所で僕は何とも思わない。そうか、有り難う。勝手にしろ。 恋愛ごっこは飽々だ。 何処までも優しくて溺れてしまう様な情欲よりも、 何時途切れるか分からない緊張感の有る駆け引きの方が、ずっと魅力的に感じる。 だけど残念、駆け引きに100%翻弄される程愚かでもない。勝利を導き出し、計算した上での言葉遊びなんだよ。僕が負ける事なんて有り得ない、そうだろう?僕にどんな像を見ているか知らないが、主将が敗北を喫すだなんて部員に示しがつかないじゃないか。 「お前には勝てない」、そう言われた時の快感と言ったら…!思わず微笑ってしまいそうになるのを堪えるのも一苦労だよ。 性格が悪い? 別に聖人を目指している訳ではないのでね。ある程度達観でもしていないと、あの癖の有る連中を率いてはいられないという事さ。 ああ、でも。相手は選んで楽しんでいるつもり。 ねえ、其処の誰かさん。 お前だよ、お前。 〆 - 8 - |
実渕玲央、 征ちゃん、知ってる? そうやって余裕ぶる人間程、ハマった時が怖いのよ。…フフ、隠してもダメ。もう結構彼にのめり込んでいる事くらい、私にはちゃァんとお見通しなんですからね! 舞台に立っていながら脚本家も演じてみて。コートを走り回りながら監督もこなしてみて。常に冷静な思考を、常に最善の行動を。浮かんだ言葉を呑み込んで自分らしく演技をするのも良いけれど、そんなの疲れちゃうわよ。 貴方の性格上、素直になる事なんて堪えきれないんでしょうけど。もう、ほーんとうちの主将ってば困ったさん! そうそう、征ちゃんの元同級生の…。桐皇のマネージャーの子ね、何だか嬉しそうに手紙を持って歩いていたわ。なになに、ラブレターかしら、全く羨ましい!文通っていいわよねえ。たった一度交わしただけでも特別な存在に変わっちゃうんだから。貴方の事、ずっと見守っちゃう!文句は言わせないわよ、色男サン。 それとまた御礼を言いたい相手が出来ちゃった、いやァん嬉しい!追って認めます。 ほら、私ってロマンチストじゃない?(反論は受け付けないわよ。)あんまり私信っぽい私信を送り合うよりは然り気無いメッセージの方が好きなの。何だか秘密の共有みたいで、二人だけにしか分からない暗号って感じ?やだーっ、素敵!伊達に“宛先不明”を謳ってない、って事。 そんなわけで私の交流ってとっても分かり難いものだけど、お付き合い下さる人は宜しくね。 〆 - 9 - |