「――では、あとはそちらで進めておきたまえ。 ところで、この前に騒いでいた食事の件だけれど。 流石にもう食べたね?」 #「えっ、あっ、んあぁ……。」 「何だね、その煮え切らない返事は。食べていないとでも?」 #「いや……食べ……食べた……。」 「それなら何も歯切れ悪くなる必要はないだろう。」 #「そのー……あのー……怒らんで聞いてほしいんやけど……。」 「何かね。」 #「チンしすぎてこげこげなってもた……。」 「ひとの料理を失敗させたのかね!?それでは美味しくなかったろう。」 #「味は変わらんかったけど、こげこげになってもた。」 泣きべそを掻いているような声がする。 渡した時点で彼のものだから、 そこまで怒り、捲し立てるつもりはないのだがね。 暫く黙っていると怒っているとでも勘違いしたのか、 メッセージが飛んできた。 #お、怒っとるん…? #ほんまにわざとやなくて #お師さぁん… #゚(゚`ω´ ゚)゚ピェー 「怒っていないからピコンピコンと送ってくるな。」 #「怒っとらん?」 「怒っていないよ。焦がすほど温めたことには呆れているけれど。」 #「変なことはしてへんよぉ。 #ただ、水分飛びすぎてかすかすこげこげなってもうた。」 「君の頭の中のようにカッスカスに、かね。」 #「おこるで!」 「焦がしておいて良い面の皮だね。」 #「顔がえぇのはお師さん。」 「話が違う。」 |
あぁ、また影片からの着信が残っている。 こんなに頻繁に掛けてきて仕事に支障はないのかね。 仕方がなく折り返すと、呑気な声が電話口から飛び出した。 #「あっ、お師さん~! #あんなぁ、この前いっぱい作ってもらったご飯のことなんやけど……。 #冷凍してたらまだ食べても大丈夫やんな?」 「あぁ……冷凍庫に入れていたなら一ヶ月程は保存が可能だろうけれど。 だからと言って取っておかないようにね。お腹を壊すから早く食べな?」 #「おぉお!!もっかい、もっかい言うて!!」 「え、なに、なにかね、怖いのだけど。」 #「お腹壊すからって!!!」 「……お腹壊すから早く食べな?」 #「うぉぉぉ!!!」 何か得体の知れないものに興奮している様子がとても怖い。 僕は君をそんな人間に育てたつもりはないのだよ……。 その文言を口にする度に昂っている様子が 声だけでも手に取るように分かる。 #「もう一回!もう一回!」 「もう十何回は言っただろう。」 #「えぇからはよ!」 「君が良くやっているゲームと同じで、無料でできるのはここまでだよ。 また明日にしたまえ。」 #「課金したらえぇんやな?」 「ち、違う……。送金するんじゃない……。」 #「ほんなら言うて。」 「お腹を壊すから早く食べな。」 #「ちゃう!!ちゃうんよ!! #語尾が上がり気味の優しいやわこ~い感じがおれは聞きたいんや!!」 「お腹を壊すから早く食べな。」 #「ちゃうの。おなかこわすからはやく食べな?やの。」 「どうでも良いから早く食べたまえよ。」 #「なんで!!!!!!なんでわからへんのや……!」 「君の妙な性癖に僕を巻き込むな……。」 #「お師さんのアホ!いけず!」 |
「こんな時間に電話をしてくるなんて……何の用かね。 君、忙しいのでは?」 #「――――!」 「暇な筈がないだろう。 ……待て。その背後の騒がしさ……どうして日本に居るのかね!?」 #「――――」 「何も当たり前ではないのだよ。 君、君はノミネートされていないとでも?」 #「――――」 「『そんな大層なものではない』? ああっ!みっともなく自分を卑下するものではないのだよ! あれでも演劇の体を成していない状態から、 まぁ観れる素人劇団程度にはなったのだから!」 #「――――」 「はぁ……?『それでノミネートされているほうがおかしい』と? 君はつくづく鈍いのだね。 それとも僕の評価があてにならないとでも言うのか。」 #「――――?」 「呆れた……君、それでも一応探偵なのだろう。 自分で推理してみてはどうかね。」 #「――――」 「兎に角、僕はこの件で七種某に連絡を試みるから君も…… チッ、空の向こうに逃げるなどとやり口が小狡いのだよ。 わかった。僕からは何も言わないよ。」 #「――――」 「納得をしていない分、今度のライブでは予算を潤沢に割いてもらおう。」 #「――――!!」 「構わないよ、君の出演作でそれに見合うだけの働きはしたのだからね!」 #「――――」 「そうと決まれば忙しくなるね。 それではまたゆっくり相談しよう。では。」 #「――!?」 |
互いに別の地で活動をしていると、なかなか、 なかなか都合良くその日のうちには会えないもので、 少し早い日取りで彼に愛の贈り物を届けた。 こちらへ来て知り合ったひとに教えてもらったのだけどね、 王妃も愛したお菓子だそうだよ。 まぁ……影片の苦手とする材料が使われていたから、 だいぶ僕自身のアレンジを加えたけれど。 それから、あまりにも普段『僕の手料理が恋しい』と メッセージを送ってくるものだから、日本に着いて早々に 寮のキッチンで幾らか保存の効くものを拵えた。 まったく……折角食事の面倒も見てもらえるように寮へ放り込んだのに 文句を言って食べるのを控えていては意味がないのだよ。 僕はね、君のことをこれだけ考えて数日前から準備を進めていた。 なのに……君ときたら、手作りだとかいうケーキを置いてきてしまって。 君の頭は相変わらず空っぽなのだろうね。 少しは僕のことを詰めたまえよ。 取りに行くように促しても押さえている時間の都合があるから、と 押し切られてしまうし。 後から取りに帰ってはくれたけれど、どうしてあの子はこうなのだろうね。 早く僕が居なくとも大丈夫と思えるような、 そんな一人前の人間になって見せて欲しいのだけれど。 これでは安心して夜眠ることもできやしない。 |