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┗609.暇だから小説でも書いてみる

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1 :nipper774さん
投稿日:11/12/19 21:10:49 grWiCaODO

あんまり期待しないでくれ

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2 :nipper774さん
投稿日:11/12/19 21:11:14 grWiCaODO


「迷惑だったかな」

私は心の中でつぶやいた。

今日はクリスマス。

華やかな電飾で彩られた夜の街の中を、大学の男友だちの、今泉くんといっしょに歩いている。

実は、たった今、ケーキが美味しいと評判の喫茶店から出てきたばっかりだ。でも……。

となりを歩く今泉くんが、さっきから、ひと言もしゃべらない。

喫茶店には私から誘ったのだけど……、

「迷惑だったかな」

と私はまた、心の中でつぶやいた。

私のお気に入りの喫茶店。ケーキは噂どおり美味しい。それを今泉くんにも好きになってほしくて、ほぼ無理やりに誘ってしまったのが、いけなかったのかもしれない。

あのケーキの味を、今泉くんが好きになってくれたら嬉しいのだけど……。迷惑だったかな? ケーキを好きになってはくれなかったかな?

考えこんでいると、今まで黙っていた今泉くんが、とつぜん言った。



「好きだ」



「本当に?」

良かった。ケーキを気にいってもらえたみたいだ。

私は、顔の筋肉が緩むのを感じた。

◆◇◆◇◆

「好きだ」

と俺はいった。

しばらくの沈黙のすえ、ようやくそれだけ言えた。

(59.135.38.161)
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3 :nipper774さん
投稿日:11/12/19 21:11:43 grWiCaODO

今日はクリスマス。

華やかな電飾で彩られた夜の街の中を、大学の女友だちと歩いている。

告白するのには絶好の機会だろう。

俺は、ながい間、思い重ねてきた気持ちをようやく言葉に出すことができた。それが、

「好きだ」

の、ひと言だった。

緊張しながら、“まだ”友だちの、彼女の表情をうかがう。

すると、ぱあっと花でも咲くかのように表情が笑みに満ちた。

もう“彼女”と言ってもいいだろう。

彼女はその笑みを俺にむけていった。

「本当に!? 私も大好きなの! 今泉くんにも気にいってもらえて嬉しい!」

そうだったのか。両思いだったのか。それなら、もっと早く告白しておけばよかった。

でも気になることがある。彼女は、俺のどこが好きなんだろう?

「あのさ、訊いてもいい?」

「なに?」

「どこが、好きなの?」

「えーとね……」

彼女は人さし指をあごに当てて、空中を見つめながら答えた。

「どこも好きだよ」

「たとえば?」

「えーと……」

(59.135.38.161)
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4 :nipper774さん
投稿日:11/12/19 21:12:12 grWiCaODO


人さし指であごをつつきながら、彼女はぽつりといった。

「たとえば……甘いところかな」

「甘いところ?」

「そう!」

彼女は、その笑みを俺の顔すれすれまで近づけてきた。

「甘くて、とっても優しい味が大好き」

興奮したようにいった。

「そうなの?」

甘くて優しい味。

そんな味を、俺は持っているんだろうか?

俺はどちらかといえば無愛想で、甘い雰囲気などないと自分では思っていたが、彼女はそう感じていたのだろうか?

「わかった。それなら、これからもっと甘い感じにしてみるよ! 努力する」

「え? 今泉くんが?」

「もちろん。俺が努力しなくて、誰が甘い味を出すんだよ」

「え!?」

彼女は顔を遠ざけ、ひらいた口に両手をあてた。

「もしかして、今泉くんが味を決めてるの!?」

「いや、決めてるっていうか、そういうのって、自然に滲みでるものじゃないの?」

「滲みでる……」

へえ、と彼女は、何かに納得したかのように、深く、なん度も、なん度もうなづいた。

(59.135.38.161)
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5 :nipper774さん
投稿日:11/12/19 21:13:00 grWiCaODO

「そっか。味は、“決める”んじゃなくて“滲みでる”んだね。今泉くんって、かっこいい。いかにも職人って感じだね」

「いや、職人ではないけど……」

少し黙った。

「ところで、他には好きなところないの?」

「他に? そうだなあ」

彼女は上目づかいに夜空を見あげた。そして、いった。

「香りも好き」

「香り?」

そういえば、きょうは少し香水をつけている。

「そうか。わかった。じゃあ、今度から、かならず、この香水をつけるよ」

「ダメだよ!」

彼女は俺の腕を両手でつかんで、大声をだした。

「なんで? だって好きなんだろ?」

「たしかに、いい香りだけど、香水なんかつけちゃダメだよ! 絶対ダメ! お腹こわしたらどうするの?」

「お腹? お腹なんか壊れないよ。実際、今までにも、なん回か香水をつけてみたことはあるし」

「今までも、つけてたの!?」

ぜんぜん気づかなかった、と彼女はヒトリ言のようにいい、俺の腕をつかんでいた手をはなした。

――つづく

(59.135.38.161)
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6 :nipper774さん
投稿日:11/12/19 21:56:57 HyKbTgJ9O

わくわくてかてか

(111.86.141.82)
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7 :nipper774さん
投稿日:11/12/20 00:45:18 PXEhrFmHO

なんだクリスマス前に息の根を止める鬱小説か…
と思って読み始めたのに


wktk

(123.108.237.30)
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8 :nipper774さん
投稿日:11/12/20 20:02:52 TaquWbssO


――続き

「信じられない。そんなのぜんぜん気づかなかった。まさか香水つけてたなんて……。なんか私、もう世の中が信じられない」

「そんなに香水イヤなの?」

ふつうの反応だよ、と彼女はいった。なんだか知らないけど、不機嫌そうな表情だ。

「でも」

不機嫌そうな表情が、また明るい表情にもどった。

「店員さんも好きだな。店員さんがいい感じの人だったから、香水の件は許すね。私も、今のところお腹こわしてないし」

「店員?」

「そう。店員さんも私は好きだよ」

俺は少し考えた。
店員が好きとは、どういうことだろう。

もしかして、俺の実家のことを言っているんだろうか? 実家は居酒屋をやっている。店員は、両親と、高校生のアルバイトの子を含めて3人。

「そう、店員が好きなんだ」

「うん。あ、知ってる? あのアルバイトの女の子ね、私と仲いいの」

「へえ、そうだったんだ」

「うん。でね、聞いたんだけど、そのアルバイトの子ね、店長さんのこと好きなんだって」

「そうだったの?」

恋愛に歳の差は関係ないんだろう。

そんなふうに考えていると、彼女がいった。

(59.135.38.167)
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9 :nipper774さん
投稿日:11/12/20 20:03:43 TaquWbssO

「店長さんも独身らしいし、好きなら付き合っちゃってもいいよね?」

「ダメだよ!」

今度は俺が彼女の腕をつかんだ。

「なに背徳的なことをすんなり言ってんだよ」

「背徳?」

「背徳だよ。だいたい独身じゃないし」

「独身だよ。店長さん本人がそう言ってたもん。間違いないよ」

「本人が?」

「うん。いちおう同居してる女性はいるらしいんだけど、別れるつもりらしいよ」

「マジかよ!」

「店長さんも、あのアルバイトの子には気があるみたいだったよ」

「本当に!?」

知らなかった。親父が、おふくろと別れるつもりだったなんて……。しかもアルバイトの高校生に気を持ってるなんて……。

「ぜんぜん知らなかったなあ。今度ガツンと言ってやらないと」

「言わなくていいって」

「いや言うよ。これは重大な問題だからさ」

「確かに重大だけど、他人のことでそんなにムキにならなくていいんじゃない?」

「他人?」

家族なんだが……。

「きみ、けっこう冷たいんだね」

「そうかな」

――つづく

(59.135.38.167)
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10 :nipper774さん
投稿日:11/12/21 03:17:12 DdLahbbCO

アンジャッシュのコント思い出したww

(123.108.237.4)
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11 :南瓜
投稿日:11/12/21 03:38:39 WbgGnol+0

なんか見ててニヤニヤするw
こういうやり取りも素敵だと思う、きっと好きな人と過ごす時間は何物にも変え難い位楽しいんだろうな。
こんな女の子と過ごす青春は俺には無かったが…w

(118.19.67.89)
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12 :nipper774さん
投稿日:11/12/21 18:52:42 D+UiPc/9O


――続き



家族のことは、ともかく……。

俺はさっき、彼女に好きだと言い、彼女も好きだと答えた。

つまり、ついさっきから、俺と彼女は“恋人同士”なワケだ。

俺は、恋人には絶対にしてほしくないことがある。それは。

浮気だ。

浮気だけはしてほしくない。もし、ほかに男をつくるなら、浮気ではなく、キッパリと別れてからにしてほしい。

「あのさ、ひとつ約束してほしいことがあるんだ」

「なに?」

「浮気だけはしないでほしいんだ。なんていうか、つまみ喰いみたいなのは、俺は嫌いなんだ。ひと筋でいってほしい」

「うーん」

彼女は首を横に傾げて考えるように唸った。

「たしかに味も香りも好きだから、ひと筋でもいいんだけど、でも、いろんな味を同時に食べ比べてみるのも楽しいと思わない?」

にこやかな顔で、彼女はそういった。

「“食べ比べる”?」

すごい表現だ。しかも、恋人の俺の前で、堂々と浮気宣言をした。

いいだろう。

そこまで堂々と言うなら、俺も、食べ比べられてやる。そして彼女を勝ちとってみせる。

(59.135.38.166)
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13 :nipper774さん
投稿日:11/12/21 18:53:23 D+UiPc/9O


「わかった。じゃあ食べ比べてみろよ」

「うん」

顔を輝かせる。

「いろんな味を試してみる。それで、将来は自分のお店をだすのが夢なんだ」

「お店?」

“食べ比べて”まで出したい店。

つまり、風俗ということだろうか?

内容はともかく……。

「夢があって、いいね」

「でしょ? いろんな人に、いろんな味を楽しんでもらうの。大人から子どもまで」

「子どもはダメだろ」

「なんで?」

「なんでって、違法じゃあないか」

「大丈夫だよ。中にはお酒を使ったのもあるけど、そうじゃないのも用意するから」

「お酒の問題だけじゃなくて」

「じゃあ、なに?」

「子どもが立ち入っていい店じゃないだろッて言ってんの」

「今泉くんこそ、なに言ってるの? 私、子どものころなんて、よくお母さんに連れてってもらったよ?」

「お母さんに?」

「うん。3歳のころなんて、そこで家族全員にお誕生日会をしてもらったことだってあるんだから」

「家族全員で? 嘘だろ?」

「本当だよ」



――つづく

(59.135.38.166)
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14 :nipper774さん
投稿日:11/12/22 13:39:49 eGtn8WfIO


あまり悪くは言いたくないが……。

「変わった家族だよな」

「どこが?」

彼女は不機嫌そうに頬をふくらませた。

「ケーキ屋さんでお誕生日会してもらうことの、どこが変わってるの?」

「え? ケーキ屋さん?」

「そうだよ。なんだと思ってたの?」

俺は人差し指で頭をかいて答えた。

「……風俗」

「風俗?」

彼女は、一瞬、眉を八の字にゆがめた。

そして、けたけたと笑った。

「違うよ。お店ってケーキ屋さんだよ。風俗なんて……私、そんな女に見えるの?」

「いや、見えないからビックリしてたんだけど……」

彼女は腹をかかえて笑っている。

そうか、彼女はケーキの話をしていたのか。

ということは……。

「ちょっと待って」

「なに?」

「ケーキの話だったってことは、はじめに“好き”って言ったのも、もしかして……」

「ケーキのことだよ」

やっぱり、そうか。

「あのさ」

俺は咳をして、体ごと彼女の方をむいた。

気をつけの姿勢をとる。

(111.86.143.15)
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15 :nipper774さん
投稿日:11/12/22 13:40:17 eGtn8WfIO


「どうしたの?」

彼女も俺の方をむいた。

「俺が好きだって言ったのは、ケーキのことじゃない」

「なに?」

「キミのことだよ」

と俺はいった。

「付き合ってほしい」

そう言って、頭をさげた。

コンクリートの地面を眺めながら、彼女の答えを待つ。

長い時間に感じた。

でも、本当は10秒ていどの時間だったかもしれない。

地面に降りては溶ける雪の粒を眺めながら、彼女の答えを待った。

やがて、彼女の言葉が聞こえてきた。

彼女はこういった。

「こちらこそ、付き合ってください」

そして、さらに、

「お願いします」

と彼女はいった。

俺は頭をあげた。

彼女が微笑んでいた。

俺も、顔の筋肉が緩むの感じた。

雪が、ふっている。

どこからか、ジングルベルの曲が聞こえてきた。

俺は、彼女と手をつないで、また歩きはじめた。友だち同士としてではなく、恋人同士として……。

風は冷たかった。


でも、彼女とつないだ手は、とても温かかった。



――fin

(111.86.143.15)
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