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┗東方逃現郷(11-20/45)

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20 :アイリス(創作♀)
2016/10/09(日) 21:20

「……いささか納得しかねるが、それはこの際置いて置こう。話が進まないからな」

「見たまんまなのに何が納得できないのさぁ。まぁいいけど」

自分の常識と、目の前の現実とのギャップに頭痛をこらえるような仕草を見せつつ慧音が仕切りなおすと、
幻月もまた納得は行っていなさそうな様子ながら素直に聞く体制に移る。
今論ずべきところは後ろの二人の処遇であって、自分自身の悪魔であるという証明ではないと幻月もわかっているのだ。
甚だ遺憾ではあるのだけれど。

「アイリスにライゼスだったか。君たちも大変な目に遭ったようだが、ひとまず彼女のような者に出会えたのは運が良かったといえるだろう。
 だが、あくまで彼女が特別であって、普通の悪魔が皆彼女のようなお人好しだとは思わないでくれ」

「……あれ? ひょっとしてディスられてる?」

首を傾げる幻月に応えるものはない。釈然としないものを感じつつも黙っているしかない幻月であった。

「さて、まず初めに言っておくことは私は君たちのこの後の身の振り方についてあれこれというつもりはないということだ。
 ここに残るのも、その自称悪魔についていくのも、あるいは別れて自分たちで旅をするのも全て君たちの好きにするといい。
 まぁ最後のはあまりお勧めはしないし、里に残るというのであれば最低限くらいの便宜は図ってやれるがな」

「はい、さっきから私の扱いがひどくないでしょうか」

「気のせいだ」

しれっと流す慧音。取り合ってもらえなかった悪魔はいじけて頬を膨らませている。悪魔がゲシュタルトブレイクした。

「……どうする? 身の安全を考えればここに残るのが最善よ。
 読み取り辛いけど、彼女からも何か底知れない力みたいなのは感じるし、
 里の人たちの様子を見るに新参者だからって虐げられたりはしないと思う」

ライゼスの言葉に慧音がひっそりと感心したように目を細める。
そんなささやかな変化に気づいた様子なくライゼスとアイリスはしばし沈黙を保ち――

「私は……幻月と一緒に行こうと思う。ここにいればきっと安全だって言うのはわかるけど、私はやっぱりあんなことがあっても私の世界に帰りたいから。
 ……それに、助けてもらったお礼もできてないしね」

どこか照れたように結論を出したのであった。

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19 :幻月(東方旧作)
2016/10/05(水) 00:47

「……ああ、でも怒らせないほうが良い手合ではあるかも?
 聞いた話だけど、体罰の頭突きはかなり強烈だって――」

「――何をしているんだ? わたしに何か用事があったんじゃないのか?」

促されたものの、やはり人里の様子が物珍しいのか、落ち着いたら改めて周囲の視線が気になったのか。
つい、軽い立ち話に興じてしまったため、再び先程の女性――上白沢慧音が怪訝そうな顔を覗かせ、三人は慌てて建物の中へと移動する。

考えてみれば、子供と遊ぶ予定をキャンセルさせているのに自分たちはのんきにお喋り、など怒られても仕方がない。
直前、幻月が言いかけていた言葉も、足を早めるのには十分な効果を発揮し、半ば雪崩込むように寺子屋の中へと場を移す。

応接、というほど立派ではないにせよ、相応に客間の体裁を整えた一室に通され、
とりあえず、と各々の前に湯気を立てる湯呑みが配られる。
自分のそれを一口含んでから――、改めて、僅かに警戒心を滲ませた硬い声音で慧音が口を開く。

「それで、わたしに何の用があって……、と聞くのは野暮かも知れんな。
 そちらはともかく――後の二人は、外来の人間だろう?
 なら、用向きは判らないでもないが――。まず、お前が何者かを聞かせて欲しいな」

「よくご存知――というか、服装見たら一目瞭然だよね。
 で、質問に答える前に一応――、こっちがアイリス、で、こっちはライゼス。見た限り、ふたりとも外来人だと想う。
 で、わたしは幻月。見ての通りの悪魔だよ」

「…そうなのか?」

「そうだってば」

――幻月の名乗りに。最初は頷きながら話を聞いていた慧音の動きが、ギシリと固まり、アイリスとライゼスはこっそりと顔を伏せる。
見ての通りも何も、どう見ても真逆にしか見えないその容姿からして、何を察しろというのかいう沈黙が落ちることしばし。
慧音がノロノロと再度口を開く。……余談だが、その視線からは既に警戒の色はほぼ消えていたようである。

「……で、その悪魔がなぜ外来人を連れてわたしのもとを訪ねてきたのかな?」

「ん、まぁちょっと――来た早々に妖怪とトラブル起こして襲われてるところに出くわしてね。慌てて助けに入ったのが、きっかけ。
 で、あのまま放っといたらふたりとも此処に着く前に死んじゃいそうだから、此処まで連れてきたんだけど……、まぁボディガード?」

「――何らかの対価の要求は?」

「「いやまったく」」

「なん…だと…」

同時に、異口同音に答え、これまた同時に首を横に振る二人を見、続いて改めて幻月を見、沈黙する慧音。
幻月がなにかおかしなことを言っただろうか、と首を傾げたところで、慧音が改めて沈痛に口火を切った。

「……スマンが幻月、わたしは君のような悪魔を知らん――というか、悪魔という種族に全く当てはまらない。
 わたしの知る歴史の限り、そんな悪魔は存在しないんだが――悪魔とはそういうものと思うか?」

「いやそう言われても、これでもれっきとした悪魔だし」

真顔で断じる慧音に、困ったように反論する幻月。――されど、その両隣で軽音に賛同するように頷く二人に、彼女はまだ気付かない。

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18 :ライゼス(創作♀)
2016/10/03(月) 18:11

「人里かぁ…うぅ、私達の格好、こんなに浮くとは思わなかった…。
 こういう現代的な服って、調達する余地が無いわよね? あっちに見える呉服屋の着物っていうのも悪くないけど」

「そうだねぇ、用意するとなると自作とか、オーダーメイドになっちゃうかな。
 まぁ安心してよ、幻想郷の製法だと、布地に強靭な芯みたいなのを埋め込んでね、
 妖怪に襲われたりした時でも簡単には破けないようにしてあるから。それも妖怪の素材なんだけどね」

和服に髪留めやかんざしといった装飾、あるいは幻月のような薄地のワンピース風の服というのがせいぜいといった中で、
洋服というのはどうも、場違いな感じにさせられる。
しかも改めて見てみると、山道を舞台に駆けずり回ったからか、二人の手足や背中には、
木の葉やクモの巣、泥みたいな汚れがあちこちに付いてしまっていた。
その事も含めて、物珍しそうに、それでいて心配そうに人里の行き交う人々から見られていると思うと、二人揃って大きな溜息を付いた。

「少しは落ち着いた? 里の中に入っちゃえば、もう何か襲ってきそうな感じはしないでしょ」

「えぇ…うん。思ったより外の柵や門もしっかりしてたわね、肌のピリピリした感じも取れたわ」

アイリスに袖口を引かれて振り向きつつ、ライゼスもどこかぎこちないながら、ようやく頬を緩めて微笑を浮かべた。
多少、里の人から気を遣われている感じがあるとは言え、やっぱり人の住処、住宅地の中というのは安心する。
大袈裟かも知れないが、傷を負う事を覚悟しながらも無事に人里まで辿り着いた、その生の安堵というものは殊更に大きいと感じた。

「ここに来る途中で大きな川に掛かる橋とかもあったしね」

「人里っていっても、これだけ太い水源を引いて、ちゃんと水路も整備してあるんだもの、
 これなら確かに人が生きられる環境って言えるわね。身の安全だけは保障されてて本当に良かった」

「なんって言うか、せっかく命の危機から逃れて人里に着いたっていうのに、味気ないコメントだなぁ…
 感想がそんなだとパサパサと乾燥してるような心地になるじゃない! …無味感想。なんちゃって」

「あっははは、上手く捻ったね、私も笑いすぎで口の中乾いてきちゃいそうだよ」

「……いやあの、ごめんなさい」

ようやく団欒の空気を作り、3人で顔を合わせて談話を始めてみると、どこか凸凹、かなりバラバラな三者三様ではあったが、
同じ体験をした仲として、近しい距離に互いを認めているのをそれぞれに許容している、そんな雰囲気が感じられた。

「それで、さっきの人、校舎の中に入っていったけど…
 けーね先生って言われてたっけ? えーと…どんな人なの、幻月」

「うん、上白沢 慧音(かみしらさわ・けいね)。幻想郷の歴史を紐解き、過去を鑑みながら、
 残された人間を正しい方向に導く、守護の立役者…ってところかな。
 私が幻想郷に来た当初…当時は幻想郷って名前があったかどうか分からないけどね、その頃から居たよ。
 長いこと、人間を守ってるんだねー…それこそ数十年くらい掛けて。彼女も妖怪なんだ、驚いた?
 でも、ちゃんと共存するスタンスを主張して、人里の皆にそれを認めて貰ってる。
 まぁ、他の妖怪と比べて受け入れられ易かったのは、彼女のちょっとした体質もあるだろうけど…」

「よ、妖怪なの…それでも、さっき子供達と一緒に? 一体どうなのかしら、それって…」

「体質?」

「うん、まぁ。ライゼスは、接してみればすぐ分かるよ、きっと。
 ただ、信頼を得やすい体質だったからとか、人間を守るって主張してるからって訳じゃない、
 決め手はけーね先生の人格が良かったからじゃないかなー。私はそう思うよ」

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17 :アイリス(創作♀)
2016/10/02(日) 21:19

「へぇ。なんか古風な感じ。ん~……道は悪くないみたいだし、このペースで歩けば30分はいらないんじゃないかな」

「あ、そんなものなんだ? もう少しかかるかと思ったけど、じゃあ行こうか」

こうして自分の足で歩いた経験がほとんどないために多めに見積もって1時間くらいは予想していたけれど、思ったより余裕があったようだ。
まだやっと見えてきたくらいで、人里までそれなりの距離があるにもかかわらずあっさり試算を出せるあたり、アイリスの言っていた風詠みの力は本物のようだ。

―――

「ふわぁ、まさに人里って感じね! こんな家、写真でしか見たことないかも。
 江戸とかこんな感じだったのかなぁ」

「……なんだか周りの目が痛いんだけど、どこまで行くの?」

興味津々と言った様子で周囲を見回すアイリスと、落ちつかなげに肩身を狭くするライゼス。
悪魔の自分は言うに及ばず、近代的な衣服に身を包んだ二人もまた、かなり浮いていた。
対照的な二人の姿に思わずクスッと笑みを溢しながらも少し離れた先にある一軒家を指差す。
周りの家よりも一回り大きく、建物の周囲で10歳前後だろうか、幼い子供たちが蹴鞠を追い回して遊んでいる。

「私たちは嫌でも目立っちゃうからね。目的地はあそこだからもう少し我慢――」

「ん? 何だお前たちは。見ない顔だな? ここ、というより私に何か用か?」

幻月に被せるように声をかけてきたのは、ちょうど件の建物から子供たちに引っ張られるようにして出てきた女性だった。
一見して優しそうな人ではあるが、瞳と声音に僅かながら警戒心が見て取れる。
しかし、その警戒心もくいくいと繋いだ手を引かれれば一瞬で霧散していた。

「けーねせんせぇ、どうしたの? いかないの?」

「あぁ、すまないな。私はこの人たちとお話があるんだ。だから他のみんなと一緒に遊んでおいで」

彼女に諭された子供は一瞬きょとんと自分たちを見つめてきたが、すぐに彼女に向き直り「わかったぁ」と無邪気な笑顔を浮かべてかけていく。ほっこりする光景に思わず頬が緩みそうになる。

「さて、ちょうど休み時間だったんだ。私は上白沢慧音。見ての通りここで寺子屋を営んでいる。
 お前たちの用件には察しが付く。立ち話もなんだから上がってくれ」

アイリスとライゼスの二人にちらりと目を向けた彼女、上白沢慧音はやや面倒そうに吐息を漏らしつつも、拒むことなく三人を迎え入れたのだった。

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16 :幻月(東方旧作)
2016/09/30(金) 22:17

「ふたりがどんな世界から来たのかは知らないけど。
 まぁ、平和な世の中でのんびり過ごしてるだけの人間は、そりゃ弱くもなってくよね。身も気も弛むだろうし。
 でもね、人間にとっても天敵と言える存在がいたりするなら、そりゃ生きるために必死になる。
 自分が生きるため、大切な人を守るため、どうしたって強くならなくちゃいけない。
 ――人里のみんながみんなそうってわけじゃないけど。人里の自警団は、正直強いよ?
 わたしでも、今の状態となると束になってこられちゃまず勝てないくらいにね。

 ……悪魔が人間との契約を求めるのは、そんな人間の強さを、輝きを間近で見たいから――
 とかなんだろうなって、ちょっと想うよ」

自分は、契約者を求めるようなタイプではないけれど、と断って話を結ぶ。
……内心で、自分が知る人里も――そして、幻想郷の話も、随分と昔のことであって、
今もそうだとは限らないのだけど、とこっそりと付け足してはしまうが。

少なくとも人里までたどり着けば、今置かれているようないつどこから襲われるとも知れない、
という状況からは解放されるとわかったからだろう。
ようやく少しだけ安堵した様子を見せるふたりに、敢えて不安にするような情報を聞かせたくはない。

「――でも、幻月って自称悪魔って割りに、そうした人里のことなんかも随分と詳しいよね?」

「自称じゃなくて、本当に悪魔なんだってば。
 流石にもう生きてないだろうけど。むか~し、まだヤンチャしてた頃に知り合った人間がいて、ね」

思い出されるのは、空飛ぶ亀に乗った巫女と、
妙な言葉づかいをするオールドファッションの魔女。
負けこそしなかったものの、自分の中では実質的に負けたと言っていい勝負だった。
只の人間二人を相手に。……アレほど忌み嫌った本性を発揮しなければ、妹一人守れなかったのだから。
――苦い気持ちを飲み下し、本人は生きてないにしても子孫くらいには会えるだろうか、
と少しだけ期待を持ちながら――。ようやく人里が見えてきたことに安堵する。

「見えてきたよ、あそこが人里。――まぁちょっと二人の目からすれば遠いかもしれないけど。
 ……抱えて飛んでいければ10分かからないんだけどねぇ」

そうもいかない、と苦笑しながらふたりに人里の方を指差してみせる。
飛んだ場合の到着予想は立てられるものの、歩きでは正直どの程度かかるか自分には検討もつかないが。

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15 :幻月(東方旧作)
2016/09/30(金) 22:15

「えーと……、ところで幻月――さん?」

「幻月でいいよ、実年齢はともかく見た目はそんなに離れてないしね。で、なに?」

不安げに黙りこくるライゼスの様相に耐えられなくなったのか、アイリスが努めて気軽に幻月へと問いを投げかける。
――までは良かったのだが、見目では下手をすれば三人の中で最年少、されど悪魔との自称を信じるなら実年齢などどれほど離れているかという話。
結局呼び方に困り、やや詰まった問いかけにはなったが、当の幻月は気にした様子も見せない。
それどころか、呼び捨てで構わないとあっさりと告げすらしてくる。
……ますます、その自称が本当であれ嘘であれ、疑問が深まるのだが……。
今はそれを飲み下し、ライゼスをちらりと見やってから再び口を開く。

「わたし達、今どこに向かってるのかなって――。幻月、アテもなく歩いてる……って感じしないし」

確かに、自分たちの行き先が判れば少しは不安も解消されるだろう。
ライゼスも、その問いかけの答えに興味を持ったのか、視線を幻月に向けている。
そんな二人の視線に、きちんと告げなかった自分の失策を感じつつ、
されど不安を解きほぐすためにも敢えて気軽な調子で答えることにして。

「あぁ言ってなかった? とりあえずは人里に向かうつもりだよ。人里の中でなら、流石に妖怪も襲っては来ないしね。
 ……ふたりとも、どこかで勘違いしてるかもしれないけど――。人間は強いよ。たぶん、ふたりが考えてるより、ずっとね」

先程の自分が語った話と矛盾する言葉。
意味が汲み取れないのか、キョトンと目を瞬かせるふたりの様子に、足を止めて振り返る。
安心の意味でも、此処はもう少し語っておいたほうが良いだろう。

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14 :ライゼス(創作♀)
2016/09/30(金) 14:14

「わ…私は大人しそうに見える子を助けたと思ったら いつの間にか正座で叱られていた
 何を言ってるのか分からないと思うけど ヘタレだとかギャップだとか
 そんなチャチなもんじゃ断じてない 本当の恐怖の鱗片っていうのを味わったわ…」

未だ痺れの余韻が残っているようで、汗をだくだくに垂らした真面目な苦悶の表情(真面目なのは顔だけ)を浮かべて後を付いてくるライゼスを、二人は尻目に気に掛けていた。

「なんだか心配だねぇ…」

「そうね、心配。私と同じように現実世界から、貴方の言う此処…幻想郷に流れ着いてきた、
 その経緯や事情はお互い様なんだけど、無性に心配にさせられちゃうものだから。
 …私も人の事言えないかも知れないけど」

「いやー、貴方に限ってはそんな事はないから。でもこの差は一体何なんだろうねぇ」

とりあえず、翼の生えた少女の案内によって獣道から一応整備された山道へと出て、道すがらを歩きながら、簡単な情報を教えて貰った。
この世界は『幻想郷』……既に住人にとっては、現世とは別の場所であると認知されている世界。そして、其処で生きる者においてもはや常識である、様々な事。

この世界には、妖怪が出る。さっきアイリスとライゼスの二人に逆上して襲い掛かった、あの摩訶不思議な術で体躯に見合わぬ殺傷力を得ていた小動物。
あれは彼女が言うには『鎌鼬(カマイタチ)』というものらしく…おおよそ現実世界でモチーフになっているイメージとそっくり。
ああ言われてみればなるほどな、と後から合点が行った。

……しかし問題は、ああした妖怪が幻想郷のそこら中に、大小様々魑魅魍魎としてうようよひしめき、人間を襲っているのだとか。
現実世界から駆逐され、とうに幻の存在…今風に言えばUMAと言ったものだろうか?
その認定を受ける事を条件として、この幻想郷に同じように流れ着き、妖怪の世を形成しているらしい。
……アイリスとライゼスも、同じようにUMA認定…分かりやすく言うと「現実世界から忘れられた」か、それとも外的要因か、
ともかく正真正銘の異邦人の立場に置かれている事を理解すると、沈痛な面持ちで口を閉ざした。

一方で、人間はどうしているかというと、太古の昔に原生生物にも蹂躙されていたように、
妖怪から身を守るために集落を作り、身を寄せ合うように暮らしているようだ。
今では想像だにしないほど情けなく、生々しくシビアな日常。
そこで暮らす集落の事を、『人里』と言った。

それだけに留まらず、同じように知能を持ち、集落を持ち、有力な妖怪が集う拠点には、
妖怪だけでなくこの少女の自称する『悪魔』と同等…もしくはまったく異なる上位存在や、
幻想郷や現世だけでなくさらに別の世界の異次元的な存在まで居るという。
本当に存在感もさる事ながら、話のスケールさえ違いすぎる。

最後に、三人は簡単な自己紹介を済ませた。

外見のほんわかしていてまだ垢抜けない、それでいて分かりやすい様子以外は一切が謎のベールに包まれた自称悪魔っ娘は、『幻月』といった。
彼女は行方不明の妹を探していると言ったが、決して所在が分からない訳でも、蒸発した訳でもないらしい。
幻月自身が、自身の住居から幻想入りしたのと同じように幻想郷へ飛ばされ、迷子悪魔となったようだ。

赤毛で三つ編みの少女『アイリス』は、自身の抱える複雑な個人情報は語らなかったが、
「私には予知夢や、細かいもの、風の流れとかを見る力がある」と告白した。
どこか虚ろな雰囲気に反して、気が強いようだった。

カジュアルなアイリスの服装から見て、良くも悪くも現代風な簡素なシャツにミニスカートを合わせただけの、眼鏡を掛けた黒髪少女は『ライゼス』と言った。
しかし、他の事に関しては歯切れ悪く言い淀んだ。アイリスと同じように話したくない事情があるのかと二人は思ったが、詮索してみるとどうも違うようだ。
ライゼスは本当に自身の名前以外の全てのプロフィールを忘却しており、かつての自分を知る当てがまるで無いらしい。
覚えている事と言えば、当人の体験したはずの思い出が決して付随しない、辞書のように雑多な知識だけだと言う。
先の、鎌鼬の妖力を察した事といい、感受性がとても強いようだが、それだけに肌が敏感で神経質なようだった。

今のところ、流れ着くなり妖怪に襲われたり、ついさっき叱られたりといったショックもあって、
ライゼスは全く落ち着かずに一番不安そうにしている。
己を形成する芯が無いものだから、精神的な支えを失っているのと同じ状態で、仕方ないとも言えたが。

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13 :アイリス(創作♀)
2016/09/30(金) 01:00

「――だから今後は軽はずみにそんな行動をとっちゃだめ。それで自分だけならまだしもこうして周りにも――(略)――」

「あ、あの、悪魔の子が……」

「こら!ちゃんと聞いて!そうやって誤魔化す癖がついちゃったら自分が損をするんだからね」

「……」

幻月が戻ると、そこには地べたに正座させられてお説教を受けるライゼスと、
彼女の前に仁王立ちで延々と説教をしているアイリスの姿があった。
自分が先の妖怪に話を通してここまで戻って来るまでの間にずっと続いていたのだろうか。
幻月の声かけにも気付いた様子なく説教を続けている。

ライゼスはすっかり萎縮してしまって体をそわそわさせている。
あれはおそらく説教に辟易しているのもあるのだろうが、それ以上に相当に足が痺れているんだろう。
こちらに気付いたライゼスが泣きそうな目で助けを求めてきていた。
アイリスの方はこちらに気付いた様子もなく延々と話し続けていて、放っておくといつまでも続けていそうだ。
どうやら助け舟を出さないとライゼスは本当に泣くまで許してもらえなさそうである。仕方ないね。

ふわりと舞い上がってアイリスのすぐ背後に舞い降りる。熱が入った彼女はこの距離でも全く気付いていない。
スゥッと肺いっぱいに空気を溜め込んで――

「た・だ・い・ま!」

「――私の知り合いにもそうやってわひゃあ!? あ、お、お帰りなさい。びっくりしたぁ」

耳元で叫んでやると説教に夢中の彼女も流石に飛び上がって尻餅をついてしまった。
ちょっと悪いことをしただろうか。手を差し伸べて立たせてやる。
その後ろでライゼスはやっと開放された正座を崩し、そのまま体ごと崩れ落ちて悶え苦しんでいた。

「とりあえずあの子には話を通してきたし、一応許してもらったからもう大丈夫だと思う。今後は気をつけてね」

「話をつけてって、話が通じる相手なの?」

「あ・く・ま、ですから!そのくらいできるよ。
とりあえずここでまた野良の妖怪に襲われてもつまらないし、人のいるところに移動しないかな? そっちの子も行ける?」

「本当にコスプレなんかじゃなかったんだ。……って君は何してんの?」

「だ、誰のせいよ!」

生まれたての小鹿のように足を震えさせて立ち上がる姿は同情を禁じえないが、立ち上がれたのならその内回復するだろう。
ライゼスの足を考えて幻月はゆっくりと人里へと足を向けたのだった。

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12 :幻月(東方旧作)
2016/09/27(火) 01:26

とりあえず事情を聞いてみれば、あまり気に食わない状況であったからと攻撃を仕掛けたことが申し訳なくなる真実が明らかにされて。
流石に呆れを隠せず、ため息を一つ。ただ水を飲んでいたそれだけで襲われたのであれば、はぐれも何もあったものでない。
たぶん、喉が渇いたから相方たちから離れて、水場に出向いたところで突如石を投げられたようなもの、なのだろう。

「はぁ……。しょうがないなぁ――。貴女達はちょっとここで待ってて、誤解解いてくるから。
 このままだと、此処をやり過ごしてもあの妖怪の仲間に狙われ続けることになるしね」

「待ってて、って――、ちょ、狙われ続けるってどういうことよ!?」

「……普通、仲間が何もしてないのに暴力振るわれたなら、怒るのが当然じゃない?」

踵を返し、先程の妖怪の居た方へと向き直る。
その背に、しどろもどろに言い訳を続けるライゼスと、呆れたように指摘するアイリスのやり取りを聞きながら、来た道を戻っていく。
まぁそれなりの対価か、落とし前をつけるかはしなければならないだろうが、
一方的な状況を見て攻撃を仕掛けたのは少々、ひどい話である。

悪魔としては、当然放置していい問題ではない、といえば万人に呆れた顔をされるが。
生まれついての性質なのだ。それはライゼスの過剰な警戒意識と同様、当人にはどうしようもない。

――――そして、十数分後。
幻月は、三度同じ道を歩いていた。
幸いにして幻術の効果がまだ続いていたこともあり、件の妖怪と再度顔を合わせるのは難しいことでなかった。

当たり前だが、怒りを露わに威嚇する相手に追撃に来たのでないことと、
誤解があったことを素直に話し、平謝りを続けることしばし。
まだ少し不満そうではあったものの、自分に免じて――ということで、妖怪と対話して何とか許しを得ての帰り道。

……思い浮かべるのは、先ごろの少女二人のこと。
推測でしかないが、あの二人はおそらく外の世界から来た人間。
「忘れられた」のか「呼び込まれた」のか、どっちなのかはわからないけれど。
どうするにせよ、このまま放置しておけばまた今回のような問題を起こしうるし、
そんなことを続ければいつかは死んでしまうだろう。

……ちらりと頭の中に、最愛の妹の顔が過ぎる。本当ならすぐにも探しに行きたいところだし、
自分の状態を考えるならそれが最優先事項であることも判る。
それでも、困っている――否、今はそれほど困っていないかもしれないが、
将来的に間違いなく困る彼女たちを見捨てていくことは自分にはできそうもなく。

――心の中で、一言妹に謝る。
それは事実上、次の――今後の自分の行動を、自分の中で定めたのに他ならない。
つまり、彼女たちを元の世界に返すなり、幻想郷に馴染ませるなり、一先ず安全になるまで守り導くということを。
それが悪魔としての役割だと一人納得して。
――やはり、万人が首を振るだろう結論に至ったところで、ちょうど二人のところに戻れたようである。

「ただいまー。とりあえず何とか誤解は解いてきたけど……。
 無闇と暴力振るうんじゃホント危ないんだから、今後は気をつけてね?」

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11 :ライゼス(創作♀)
2016/09/27(火) 01:24

「悪魔って、どういう事よ…。さっきの突然変異でもしたような凶暴な動物といい、なんだか異常だわ、この環境は」

知らず知らずのうちにであるが、窮地を乗り越えた後もまだ気分は昂揚し、頭の急激な発熱を自覚するほどに、ライゼスは熱くなってしまいがちな性質をしていた。
颯爽と二人のピンチに駆けつけていながら、『悪魔』という比較的マイナスイメージのある象徴、それを決して冗談とは言わない相手。
その唯一混じる不純な点が気に掛かり、第一印象の潔白さがあっても、決して彼女の事を信用しきれずにいた。
だが、振り返る謎の少女の物悲しげな表情に、先の凶暴な動物と同一視していたような物言いを、自らが気付かされる。

「……ごめん。本当に天使様だったなら、きっともっと素直に感謝してた。それくらい、助けて貰って嬉しかったわ…。現金かしら、私…」

「いいの、こちとら長い事悪魔やってたのは伊達じゃないんだよ、ちょっとしたお節介を焼くのも慣れてるからね。礼には及ばないよ」

彼女は気丈な笑みを向けて、此方を見返す。
己の存在がどこか異質である事を、彼女自身も分かっていて、それを隠そうとしたのだ。だからこそライゼスにもその事に気付いた。
やはり、全てを鵜呑みにするまでには至らないものの、本当に礼は要らないつもりで此方を助けたという事と、それから正直すぎるくらいの心を持っている事も。

「ここまでくれば大丈夫かな。それで? 何で君たちはあんなところであんなのに襲われてたの?」

「そ、その。今までに見た事もないような、全身凶器の動物だったから、水を飲んでるところを追い払おうとして、牽制のつもりで石をぶつけた…から」

「…言うまでもなく、貴方のせいだよ、それ」

「ご…ごめんなさいっ…」

「貴方は…こっちの翼の生えてる子のように詳しい訳じゃないのに、一体どうしてそんな事を…?」

「だ、だって、右も左も分からない場所で、水辺のほとりで佇んでたら…いきなりあんなのが隣に出てきて! 誰だって追い払おうとするでしょ?」

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