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┗東方逃現郷(7-16/45)
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16 :
幻月(東方旧作)
2016/09/30(金) 22:17
「ふたりがどんな世界から来たのかは知らないけど。
まぁ、平和な世の中でのんびり過ごしてるだけの人間は、そりゃ弱くもなってくよね。身も気も弛むだろうし。
でもね、人間にとっても天敵と言える存在がいたりするなら、そりゃ生きるために必死になる。
自分が生きるため、大切な人を守るため、どうしたって強くならなくちゃいけない。
――人里のみんながみんなそうってわけじゃないけど。人里の自警団は、正直強いよ?
わたしでも、今の状態となると束になってこられちゃまず勝てないくらいにね。
……悪魔が人間との契約を求めるのは、そんな人間の強さを、輝きを間近で見たいから――
とかなんだろうなって、ちょっと想うよ」
自分は、契約者を求めるようなタイプではないけれど、と断って話を結ぶ。
……内心で、自分が知る人里も――そして、幻想郷の話も、随分と昔のことであって、
今もそうだとは限らないのだけど、とこっそりと付け足してはしまうが。
少なくとも人里までたどり着けば、今置かれているようないつどこから襲われるとも知れない、
という状況からは解放されるとわかったからだろう。
ようやく少しだけ安堵した様子を見せるふたりに、敢えて不安にするような情報を聞かせたくはない。
「――でも、幻月って自称悪魔って割りに、そうした人里のことなんかも随分と詳しいよね?」
「自称じゃなくて、本当に悪魔なんだってば。
流石にもう生きてないだろうけど。むか~し、まだヤンチャしてた頃に知り合った人間がいて、ね」
思い出されるのは、空飛ぶ亀に乗った巫女と、
妙な言葉づかいをするオールドファッションの魔女。
負けこそしなかったものの、自分の中では実質的に負けたと言っていい勝負だった。
只の人間二人を相手に。……アレほど忌み嫌った本性を発揮しなければ、妹一人守れなかったのだから。
――苦い気持ちを飲み下し、本人は生きてないにしても子孫くらいには会えるだろうか、
と少しだけ期待を持ちながら――。ようやく人里が見えてきたことに安堵する。
「見えてきたよ、あそこが人里。――まぁちょっと二人の目からすれば遠いかもしれないけど。
……抱えて飛んでいければ10分かからないんだけどねぇ」
そうもいかない、と苦笑しながらふたりに人里の方を指差してみせる。
飛んだ場合の到着予想は立てられるものの、歩きでは正直どの程度かかるか自分には検討もつかないが。
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15 :
幻月(東方旧作)
2016/09/30(金) 22:15
「えーと……、ところで幻月――さん?」
「幻月でいいよ、実年齢はともかく見た目はそんなに離れてないしね。で、なに?」
不安げに黙りこくるライゼスの様相に耐えられなくなったのか、アイリスが努めて気軽に幻月へと問いを投げかける。
――までは良かったのだが、見目では下手をすれば三人の中で最年少、されど悪魔との自称を信じるなら実年齢などどれほど離れているかという話。
結局呼び方に困り、やや詰まった問いかけにはなったが、当の幻月は気にした様子も見せない。
それどころか、呼び捨てで構わないとあっさりと告げすらしてくる。
……ますます、その自称が本当であれ嘘であれ、疑問が深まるのだが……。
今はそれを飲み下し、ライゼスをちらりと見やってから再び口を開く。
「わたし達、今どこに向かってるのかなって――。幻月、アテもなく歩いてる……って感じしないし」
確かに、自分たちの行き先が判れば少しは不安も解消されるだろう。
ライゼスも、その問いかけの答えに興味を持ったのか、視線を幻月に向けている。
そんな二人の視線に、きちんと告げなかった自分の失策を感じつつ、
されど不安を解きほぐすためにも敢えて気軽な調子で答えることにして。
「あぁ言ってなかった? とりあえずは人里に向かうつもりだよ。人里の中でなら、流石に妖怪も襲っては来ないしね。
……ふたりとも、どこかで勘違いしてるかもしれないけど――。人間は強いよ。たぶん、ふたりが考えてるより、ずっとね」
先程の自分が語った話と矛盾する言葉。
意味が汲み取れないのか、キョトンと目を瞬かせるふたりの様子に、足を止めて振り返る。
安心の意味でも、此処はもう少し語っておいたほうが良いだろう。
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14 :
ライゼス(創作♀)
2016/09/30(金) 14:14
「わ…私は大人しそうに見える子を助けたと思ったら いつの間にか正座で叱られていた
何を言ってるのか分からないと思うけど ヘタレだとかギャップだとか
そんなチャチなもんじゃ断じてない 本当の恐怖の鱗片っていうのを味わったわ…」
未だ痺れの余韻が残っているようで、汗をだくだくに垂らした真面目な苦悶の表情(真面目なのは顔だけ)を浮かべて後を付いてくるライゼスを、二人は尻目に気に掛けていた。
「なんだか心配だねぇ…」
「そうね、心配。私と同じように現実世界から、貴方の言う此処…幻想郷に流れ着いてきた、
その経緯や事情はお互い様なんだけど、無性に心配にさせられちゃうものだから。
…私も人の事言えないかも知れないけど」
「いやー、貴方に限ってはそんな事はないから。でもこの差は一体何なんだろうねぇ」
とりあえず、翼の生えた少女の案内によって獣道から一応整備された山道へと出て、道すがらを歩きながら、簡単な情報を教えて貰った。
この世界は『幻想郷』……既に住人にとっては、現世とは別の場所であると認知されている世界。そして、其処で生きる者においてもはや常識である、様々な事。
この世界には、妖怪が出る。さっきアイリスとライゼスの二人に逆上して襲い掛かった、あの摩訶不思議な術で体躯に見合わぬ殺傷力を得ていた小動物。
あれは彼女が言うには『鎌鼬(カマイタチ)』というものらしく…おおよそ現実世界でモチーフになっているイメージとそっくり。
ああ言われてみればなるほどな、と後から合点が行った。
……しかし問題は、ああした妖怪が幻想郷のそこら中に、大小様々魑魅魍魎としてうようよひしめき、人間を襲っているのだとか。
現実世界から駆逐され、とうに幻の存在…今風に言えばUMAと言ったものだろうか?
その認定を受ける事を条件として、この幻想郷に同じように流れ着き、妖怪の世を形成しているらしい。
……アイリスとライゼスも、同じようにUMA認定…分かりやすく言うと「現実世界から忘れられた」か、それとも外的要因か、
ともかく正真正銘の異邦人の立場に置かれている事を理解すると、沈痛な面持ちで口を閉ざした。
一方で、人間はどうしているかというと、太古の昔に原生生物にも蹂躙されていたように、
妖怪から身を守るために集落を作り、身を寄せ合うように暮らしているようだ。
今では想像だにしないほど情けなく、生々しくシビアな日常。
そこで暮らす集落の事を、『人里』と言った。
それだけに留まらず、同じように知能を持ち、集落を持ち、有力な妖怪が集う拠点には、
妖怪だけでなくこの少女の自称する『悪魔』と同等…もしくはまったく異なる上位存在や、
幻想郷や現世だけでなくさらに別の世界の異次元的な存在まで居るという。
本当に存在感もさる事ながら、話のスケールさえ違いすぎる。
最後に、三人は簡単な自己紹介を済ませた。
外見のほんわかしていてまだ垢抜けない、それでいて分かりやすい様子以外は一切が謎のベールに包まれた自称悪魔っ娘は、『幻月』といった。
彼女は行方不明の妹を探していると言ったが、決して所在が分からない訳でも、蒸発した訳でもないらしい。
幻月自身が、自身の住居から幻想入りしたのと同じように幻想郷へ飛ばされ、迷子悪魔となったようだ。
赤毛で三つ編みの少女『アイリス』は、自身の抱える複雑な個人情報は語らなかったが、
「私には予知夢や、細かいもの、風の流れとかを見る力がある」と告白した。
どこか虚ろな雰囲気に反して、気が強いようだった。
カジュアルなアイリスの服装から見て、良くも悪くも現代風な簡素なシャツにミニスカートを合わせただけの、眼鏡を掛けた黒髪少女は『ライゼス』と言った。
しかし、他の事に関しては歯切れ悪く言い淀んだ。アイリスと同じように話したくない事情があるのかと二人は思ったが、詮索してみるとどうも違うようだ。
ライゼスは本当に自身の名前以外の全てのプロフィールを忘却しており、かつての自分を知る当てがまるで無いらしい。
覚えている事と言えば、当人の体験したはずの思い出が決して付随しない、辞書のように雑多な知識だけだと言う。
先の、鎌鼬の妖力を察した事といい、感受性がとても強いようだが、それだけに肌が敏感で神経質なようだった。
今のところ、流れ着くなり妖怪に襲われたり、ついさっき叱られたりといったショックもあって、
ライゼスは全く落ち着かずに一番不安そうにしている。
己を形成する芯が無いものだから、精神的な支えを失っているのと同じ状態で、仕方ないとも言えたが。
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13 :
アイリス(創作♀)
2016/09/30(金) 01:00
「――だから今後は軽はずみにそんな行動をとっちゃだめ。それで自分だけならまだしもこうして周りにも――(略)――」
「あ、あの、悪魔の子が……」
「こら!ちゃんと聞いて!そうやって誤魔化す癖がついちゃったら自分が損をするんだからね」
「……」
幻月が戻ると、そこには地べたに正座させられてお説教を受けるライゼスと、
彼女の前に仁王立ちで延々と説教をしているアイリスの姿があった。
自分が先の妖怪に話を通してここまで戻って来るまでの間にずっと続いていたのだろうか。
幻月の声かけにも気付いた様子なく説教を続けている。
ライゼスはすっかり萎縮してしまって体をそわそわさせている。
あれはおそらく説教に辟易しているのもあるのだろうが、それ以上に相当に足が痺れているんだろう。
こちらに気付いたライゼスが泣きそうな目で助けを求めてきていた。
アイリスの方はこちらに気付いた様子もなく延々と話し続けていて、放っておくといつまでも続けていそうだ。
どうやら助け舟を出さないとライゼスは本当に泣くまで許してもらえなさそうである。仕方ないね。
ふわりと舞い上がってアイリスのすぐ背後に舞い降りる。熱が入った彼女はこの距離でも全く気付いていない。
スゥッと肺いっぱいに空気を溜め込んで――
「た・だ・い・ま!」
「――私の知り合いにもそうやってわひゃあ!? あ、お、お帰りなさい。びっくりしたぁ」
耳元で叫んでやると説教に夢中の彼女も流石に飛び上がって尻餅をついてしまった。
ちょっと悪いことをしただろうか。手を差し伸べて立たせてやる。
その後ろでライゼスはやっと開放された正座を崩し、そのまま体ごと崩れ落ちて悶え苦しんでいた。
「とりあえずあの子には話を通してきたし、一応許してもらったからもう大丈夫だと思う。今後は気をつけてね」
「話をつけてって、話が通じる相手なの?」
「あ・く・ま、ですから!そのくらいできるよ。
とりあえずここでまた野良の妖怪に襲われてもつまらないし、人のいるところに移動しないかな? そっちの子も行ける?」
「本当にコスプレなんかじゃなかったんだ。……って君は何してんの?」
「だ、誰のせいよ!」
生まれたての小鹿のように足を震えさせて立ち上がる姿は同情を禁じえないが、立ち上がれたのならその内回復するだろう。
ライゼスの足を考えて幻月はゆっくりと人里へと足を向けたのだった。
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12 :
幻月(東方旧作)
2016/09/27(火) 01:26
とりあえず事情を聞いてみれば、あまり気に食わない状況であったからと攻撃を仕掛けたことが申し訳なくなる真実が明らかにされて。
流石に呆れを隠せず、ため息を一つ。ただ水を飲んでいたそれだけで襲われたのであれば、はぐれも何もあったものでない。
たぶん、喉が渇いたから相方たちから離れて、水場に出向いたところで突如石を投げられたようなもの、なのだろう。
「はぁ……。しょうがないなぁ――。貴女達はちょっとここで待ってて、誤解解いてくるから。
このままだと、此処をやり過ごしてもあの妖怪の仲間に狙われ続けることになるしね」
「待ってて、って――、ちょ、狙われ続けるってどういうことよ!?」
「……普通、仲間が何もしてないのに暴力振るわれたなら、怒るのが当然じゃない?」
踵を返し、先程の妖怪の居た方へと向き直る。
その背に、しどろもどろに言い訳を続けるライゼスと、呆れたように指摘するアイリスのやり取りを聞きながら、来た道を戻っていく。
まぁそれなりの対価か、落とし前をつけるかはしなければならないだろうが、
一方的な状況を見て攻撃を仕掛けたのは少々、ひどい話である。
悪魔としては、当然放置していい問題ではない、といえば万人に呆れた顔をされるが。
生まれついての性質なのだ。それはライゼスの過剰な警戒意識と同様、当人にはどうしようもない。
――――そして、十数分後。
幻月は、三度同じ道を歩いていた。
幸いにして幻術の効果がまだ続いていたこともあり、件の妖怪と再度顔を合わせるのは難しいことでなかった。
当たり前だが、怒りを露わに威嚇する相手に追撃に来たのでないことと、
誤解があったことを素直に話し、平謝りを続けることしばし。
まだ少し不満そうではあったものの、自分に免じて――ということで、妖怪と対話して何とか許しを得ての帰り道。
……思い浮かべるのは、先ごろの少女二人のこと。
推測でしかないが、あの二人はおそらく外の世界から来た人間。
「忘れられた」のか「呼び込まれた」のか、どっちなのかはわからないけれど。
どうするにせよ、このまま放置しておけばまた今回のような問題を起こしうるし、
そんなことを続ければいつかは死んでしまうだろう。
……ちらりと頭の中に、最愛の妹の顔が過ぎる。本当ならすぐにも探しに行きたいところだし、
自分の状態を考えるならそれが最優先事項であることも判る。
それでも、困っている――否、今はそれほど困っていないかもしれないが、
将来的に間違いなく困る彼女たちを見捨てていくことは自分にはできそうもなく。
――心の中で、一言妹に謝る。
それは事実上、次の――今後の自分の行動を、自分の中で定めたのに他ならない。
つまり、彼女たちを元の世界に返すなり、幻想郷に馴染ませるなり、一先ず安全になるまで守り導くということを。
それが悪魔としての役割だと一人納得して。
――やはり、万人が首を振るだろう結論に至ったところで、ちょうど二人のところに戻れたようである。
「ただいまー。とりあえず何とか誤解は解いてきたけど……。
無闇と暴力振るうんじゃホント危ないんだから、今後は気をつけてね?」
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11 :
ライゼス(創作♀)
2016/09/27(火) 01:24
「悪魔って、どういう事よ…。さっきの突然変異でもしたような凶暴な動物といい、なんだか異常だわ、この環境は」
知らず知らずのうちにであるが、窮地を乗り越えた後もまだ気分は昂揚し、頭の急激な発熱を自覚するほどに、ライゼスは熱くなってしまいがちな性質をしていた。
颯爽と二人のピンチに駆けつけていながら、『悪魔』という比較的マイナスイメージのある象徴、それを決して冗談とは言わない相手。
その唯一混じる不純な点が気に掛かり、第一印象の潔白さがあっても、決して彼女の事を信用しきれずにいた。
だが、振り返る謎の少女の物悲しげな表情に、先の凶暴な動物と同一視していたような物言いを、自らが気付かされる。
「……ごめん。本当に天使様だったなら、きっともっと素直に感謝してた。それくらい、助けて貰って嬉しかったわ…。現金かしら、私…」
「いいの、こちとら長い事悪魔やってたのは伊達じゃないんだよ、ちょっとしたお節介を焼くのも慣れてるからね。礼には及ばないよ」
彼女は気丈な笑みを向けて、此方を見返す。
己の存在がどこか異質である事を、彼女自身も分かっていて、それを隠そうとしたのだ。だからこそライゼスにもその事に気付いた。
やはり、全てを鵜呑みにするまでには至らないものの、本当に礼は要らないつもりで此方を助けたという事と、それから正直すぎるくらいの心を持っている事も。
「ここまでくれば大丈夫かな。それで? 何で君たちはあんなところであんなのに襲われてたの?」
「そ、その。今までに見た事もないような、全身凶器の動物だったから、水を飲んでるところを追い払おうとして、牽制のつもりで石をぶつけた…から」
「…言うまでもなく、貴方のせいだよ、それ」
「ご…ごめんなさいっ…」
「貴方は…こっちの翼の生えてる子のように詳しい訳じゃないのに、一体どうしてそんな事を…?」
「だ、だって、右も左も分からない場所で、水辺のほとりで佇んでたら…いきなりあんなのが隣に出てきて! 誰だって追い払おうとするでしょ?」
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10 :
アイリス(創作♀)
2016/09/26(月) 22:14
「え? えぇ!? ちょ、今度はいったい何!?」
逃げ場をなくした二人の前に突如舞い降りた少女。
次から次へとめまぐるしく変わる展開にアイリスたちは付いていけず、
ただこの場から逃げ出したい一心でされるがままに再び藪の中をかけていた。
「翼がある……それにさっきの技、貴女はいったい何者なの? 味方、と思ってもいいのかしら?」
自身と共に反対側の腕に引かれて走る少女の言葉に、アイリスはようやく目の前を先導する少女が普通の女の子ではないことに気付いた。
怯えるしかなかった自分と違い、隣の少女は冷静に現実を見定めていたようだ。ちょっと恥ずかしい。
「ん~……妹を探してたら追われてる君たちを見かけてね~。
女の子を執拗に追い詰めてるのなんか見ちゃったら助けないわけには行かないでしょ? 悪魔的に!」
……
最後の一言に二人そろって目を見合わせる。世間一般的に言う悪魔のイメージとしてはあまりにかけ離れている。その背の翼もまた神々しいほどに純白で、その姿はどう見ても――
「「天使じゃなくて?」」
「悪魔だって言ってるでしょ! 私は幻月。れっきとした悪魔だよ!」
……深く突っ込まない方がいいらしい。
短いアイコンタクトで意思疎通を図った二人はちらりと背後を確認する。
追ってくる気配はない。どうやら撒いたようだ。
目の前の少女もそれを確認したのだろう。ようやく足を止め、こちらに振り返った。
改めてみた彼女は人形のように整っており思わず見とれてしまうほどに愛らしかった。
間違っても悪魔には見えない。
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9 :
幻月(東方旧作)
2016/09/26(月) 01:13
藪の動きを上空から追いながら飛行することしばし。
程なくして目に飛び込んできたのは、果てしなく広がるように思えた藪の終わり。
一定拓けた場所――だけ。その先につながるはずの道、恐らくは追われているのだろう誰かが命を繋ぐための道は其処にはなく。
恐らくは追い詰める側はそれを承知で、此処まで追い詰めたのだろう。狩猟者としては的確だが……。
希望を与えたあと絶望につなぐようなそのやり口は酷く癇に障る。
……と、そんなことを思っているうちに、二人の少女が転がるようにして藪の中から飛び出してくるのがみえる。
と成れば、追われる側が二人……、自分が排除すべき対象の方は一人で済む、と冷静に見定めながら、
続いて出てくるはずの狩猟者を見定めようと、目を凝らす。
……とは言ったものの大体の想像は容易……、先ごろ藪を裂くようにして通り過ぎた風。
……それほど大したものではない、というところまでは推察できた。
となれば、風を操る妖怪の中でも上位に位置する、天狗ではありえない。
そも、天狗は人間に対し一定友好的な妖怪だし、人食いの性質があるとも寡聞にして聞いたことはない。
「……カマイタチか。それも、多分はぐれかな」
本来カマイタチは、三位一体。
それが、単独で狩猟をしているということは何らかの理由で連れ合いを失ったか、はぐれたか。
今の自分に多少近いものを感じはするが――。
一見して無力な少女二人を追い詰める側であるのなら、残念ながら彼らの味方をしてやることは出来ない。
緩く片手を持ち上げ藪の出口へと手のひらを向けて――。姿を表したその細長い身体めがけて一筋の光線を撃ち込む。
……十分な速さ、それなりの太さはある一閃とはなったが――。
同時に、自分の現状を思い知らされ、内心歯噛みする想いは抑えられない。
本来であれば、一抱えはあるほどの巨大なレーザーを放てるスペルであると言うのに、今となってはこの体たらく。
本来の威力で放っていれば、少女たちもそのまま巻き込んでいただろうから、結果オーライではあるのだが。
素早く少女たちの元へと降下し、少女たちとカマイタチの間に着地――そのついでで、自分の攻撃の成果を改めて確かめてみる。
「……まぁこんな程度でやられちゃくれない、と。まぁ判ってた」
相応のダメージにはなったようではあるが、戦闘不能には遠い。良いところ軽傷、と言ったところだろう。
……言葉はわからないが、狩猟の邪魔をしたことに対する怒りや不満のような気配が向けられるのは判る。
改めて背後を確認する。切り立った崖は、自分が足止めを買って出たとしても、
少女たちが降りるにはあまりにも険しいことは見て取れる。
以上、2秒で纏めた思考の総括。
「……うん、だめだこりゃ。貴方達、割と詰んでる」
守りながら戦うには足場が悪く、時間を稼いだところで少女たちが逃げる事は叶わない。
得物の一つもあれば別だが、徒手で戦うには今の自分では分が悪すぎる。
くるりと少女たちに振り向くと、軽く片手で謝罪を示す動きを見せる。
自分がいくら時間を稼いだところで少女たちが逃げる事は叶わない。
で、あるなら少なくともこの場で行動不能に追い込むか追い払うかするしかないだろう。
「まぁ、生きるためにやってることだし、出来るならさっさとこの場から逃げ出して終わりにしたかったけど」
前者は得物の一つもあれば何とかならなくもない、だろうが……都合よく武器など持っているわけもない。
と成れば、手段は一つ。
「――――――――。」
詠うように紡がれる詠唱、少女たちにも――そして恐らくはカマイタチにも、何を意味するものなのかは理解できなかっただろう。
もっとも、カマイタチの方はすぐに身をもって理解できたかもしれないが……。
「……良し、効いた効いた。でも、あんまり長くは保たないから。
わたしの術が聞いてるうちに逃げるよ、でないとわたしが大変なことになっちゃう」
下級妖怪と言えど素手で、人二人守りながら戦うと成れば相当難儀するのは避けられない。
状況が飲み込めていない様子の二人に理解が及ぶのを待たず、素早く二人の腕をつかむと、
二人――(三人?)が出てきた藪の中に再度飛び込んだ。
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8 :
ライゼス(創作♀)
2016/09/26(月) 01:12
「っ……。どうする…どうする…。えっ? 何か言った?」
自身と同じく、今の状況を知らない、あるいは慣れている様子も見えずに言及を求めるような眼差しを、後ろ手に振り返って見返す。
そんな彼女の身柄を引き受けた時点で、責任と強いプレッシャーを感じて、
頭の中は目の前の事態の対処を考える事だけでいっぱいで。
「ですから…どうして逃げているんですか? 説明を…」
「説明って言われたって…えぇと…、今じゃなきゃダメ?」
場面に合わないような事を改めて要求されているのに、自身の方が戸惑ってしまい、
ろくに返答を返せない。かといってはっきり断る事も出来ない。
この地に至るまでの記憶そのものは綺麗さっぱり漂白されているのだが、ライゼスは、きっと自身は昔から
ずっとこう…不器用だったのだろうと思うと、比較的に超早く、
自意識を取り戻してからほんの数分で、己の人生に諦めを抱いた。
……背後から忍び寄る死神のような何か。
『あんな現実離れした存在が居るのなら、私の過去に何が起こっていようとも可笑しくは無い』
と、パニックから一転、絶望感をそのままに現状を受け入れ。
そして、この場において何も知らない隣の少女もまた、多少の差異はあれ、自身と似たような…そういうシンパシーを感じていた。
ライゼスは、逆境の中において、自身の保身と、そしてその自身よりも優先すべき大事なものを考えてこそ、冷静であった。
「…伏せてっ!」
「きゃあ!?」
今度は、この場の問答は無駄と割り切って、押し倒すような形で強引に身を伏せさせた。
頭上の木の枝が纏めて薙ぎ払われ、木の幹には同じ高さに遠くまで一条の切り傷が刻まれていた。
……まるで質量のある刃物でも頭上を通過したようであった。
「わ…私も、一体何がどうなっているか、ここは何処なのかだって、まるで分からないの。
だから今はこの場を切り抜ける事を考えて…いい?」
「は…はい」
再び、少女に驚かせたような表情をさせた事に、胸がちくりと痛むような罪悪感を感じたが。
今度は迷いも躊躇いも抱かず、ちゃんと言えた。
「私…、これで間違ってない…よね? なんて、聞かれたって逆に困ると思うけど…今はその。信じて…」
「……」
いたたまれなくなって、自身の行動原理を少女に問いた。
あまりに情けなかったが、掌を握り返す指先に籠る力がぎゅっと確かなものに変わった事を…
その変化を言葉以上に感じると、少し報われた気持ちになった。
茂みを切り抜けて、拓けた場所に出るが、しかし眼前には切り立った断崖が行く手を阻んでいた。
ロッククライミングの経験さえ無いような、普通の少女二人が登って逃げ切るのは、あまりに険しく現実味も無い話で…
無慈悲に逃走経路を塞がれている、そういう実感を伴う冷たい心地で、足を留めた。
これ以上追う必要も無いというように、狩猟者も奥の茂みから姿を現した。
思った以上に小柄で、胴体の細長い小動物であったが、指先よりも2倍は長く鋭い爪を持ち、
また体の周りを吹き荒ぶような風が旋回して、纏っていた。
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7 :
アイリス(創作♀)
2016/09/26(月) 01:11
アイリスは夢を見ていた。それは真っ白な霞の中にいるようでふわふわと心地よく、
されど捕らえどころのないそこは先の見えない恐怖感も彼女の心に抱かせる。
『私は……こんなところで何をしているんだろう?』
自問するも応える者はいない。生まれながらに身についていた予知夢を見る力。
幸せな夢も不幸な夢もどれだけ努力しようと変わらない結末に少女は疲弊し、全てのことに絶望してしまった彼女は、
後はこのまま転機もなく生きたまま死んでいるような日々を過ごすのだろうと考えていた。
『……―――……』
不意に少女の耳朶が何かを捉える。
女声らしい声が聞こえた気がしたのだが、待ってみても耳を澄ましてみても辺りは静まり返ったまま。
霞がかった変哲のない風景を少女に返すだけだ。
「気のせい? でも、たしかに……」
一文字たりとも聞き取れなかったはずなのに。
どうしてかアイリスは自分が呼ばれている感覚に無意識に歩を進めていた。
霞の中を歩き続け、視界が開けた先――。
「……あれ?」
アイリスは鬱蒼と生い茂る草むらの中で目を覚ました。
何でこんな場所に寝ているのか皆目見当も付かない。
前後の記憶を振り返ってみるも、夢の内容でさえ事細かに覚えているのが常の自分にしては珍しく、
ぼんやりした夢の印象だけを残して手がかりになりそうな情報は何も思い出せなかった。
「何でこんなところに? 私が寝てる間に捨てられちゃった……とか? ま、まさかねぇ。あはは……」
冗談めかして気を紛らわせて見るも、ここ暫くの両親の姿を思い描いてみれば冗談が冗談と思えなくなるには十分で。
自分で抱いた想像にじわじわと恐怖心が込み上げてくる。
「何なの? ここはどこ!? い、嫌だ……お父さん、お母さん! なんでこんな、私は……ひぅ!?」
今にも叫び出してしまいそうな極限の精神状態。そんな中、突如としてすぐそばの茂みから飛び出してくる影に、
少女は思わず悲鳴を上げてへたり込んでしまう。
「……! た、立てる? 今はその、えっと…とにかく一緒に来て! 逃げないと…。襲われるわよっ…貴女も…!」
かけられた声に恐る恐る見上げてみれば、そこに立つのはれっきとした少女。
赤の他人とはいえ、自身と同じ人間の姿に安堵したのもつかの間、気付けばアイリスは彼女に半ば無理矢理に立たされ駆け出していた。
「な、何がどうなってるんですか? ここはいったい……ちゃんと説明してください」
背後より迫る不穏な足音を背景に、少女の悲鳴が茂み一帯に響き渡ったのであった。
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